・・・それがつまり風化だな。」大学士は眼鏡をはずし半巾で拭いて呟やく。「プラジョさん。お早くどうか願います。只今気絶をいたしました。」「はぁい。いまだんだんそっちを向きますから。ようっと。はい、はい。これは、なるほど。ふふん。一寸・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・ 徳田さんのもっている色調はきついチョコレートがかった茶色であり、それに漆がかっているような艷がある。風化作用に対して、いかにも抵抗力のきつい感じである。若さは、この人物のうちにあって、瑞々しいというようなものではなく、もっと熱気がつよ・・・ 宮本百合子 「熱き茶色」
・・・龍宮造りの山門を潜り石段を登ると、風化作用によって一種趣のついた石欄がある。奥に、朱塗の唐門があり、鍵の手に大雄宝殿――本堂となっている。古色を帯びた甃の上の柱廊を以て、護法堂その他の建物が連絡されている。総て朱塗だ、新に余り品質のよくない・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・安寿は畳なり合った岩の、風化した間に根をおろして、小さい菫の咲いているのを見つけた。そしてそれを指さして厨子王に見せて言った。「ごらん。もう春になるのね」 厨子王は黙ってうなずいた。姉は胸に秘密を蓄え、弟は憂えばかりを抱いているので、と・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
・・・水の豊富なこと、花崗岩の風化でできた砂まじりの土壌のことなどは、すぐ目についてくる。ところでその湿気や土壌が植物とどういうふうに関係してくるかということになると、なかなか複雑で、素人には見とおしがつかない。ただほんの一端が見えるだけである。・・・ 和辻哲郎 「京の四季」
出典:青空文庫