・・・ 谷あいの土地であるから地形により数町はなれると風向がよほどちがう場合が多い。そういう場合に、いつでもまたどこでも、その時その場所の風に頭を向けている。時刻がだいたい同じなら太陽の方向は同じであると考えていいのであるから、太陽の影響は、・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・尤も雲の形状運動や、風向、気温のごとき今日のいわゆる気象要素と名づくるものの表示に拠りたる事もあれど、同時にまた動物の挙動や人間の生理状態のごとき綜合的の表現をも材料としたり。かくのごとき材料も場合によりてはあえて非科学的とは称し難きも、と・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・この日の降灰は風向の北がかっていたために御代田や小諸方面に降ったそうで、これは全く珍しいことであった。 当時北軽井沢で目撃した人々の話では、噴煙がよく見え、岩塊のふき上げられるのもいくつか認められまた煙柱をつづる放電現象も明瞭に見られた・・・ 寺田寅彦 「小爆発二件」
・・・例えば毒ガスの使用などでも適当な風向きの時を選ぶは勿論、その風向きが使用中に逆変せぬような場合を選ばなければならない。本年四月十日と五月十二日に独軍の使用した毒ガスは風向き急変のために却ってドイツ側へ飛んで行ったという記事がある。また四月英・・・ 寺田寅彦 「戦争と気象学」
・・・そうしてこの頂角を二等分する線の方向がほぼ発火当時の風向に近いのである。これはなんという不幸な運命の悪戯であろう。詳しく言えば、この日この火元から発した火によって必然焼かれうべき扇形の上にあたかも切ってはめたかのように函館全市が横たわってい・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・林を伐るときはね、よく一年中の強い風向を考えてその風下の方からだんだん伐って行くんだよ。林の外側の木は強いけれども中の方の木はせいばかり高くて弱いからよくそんなことも気をつけなけぁいけないんだ。だからまず僕たちのこと悪く云う前によく自分の方・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・いつもコッコッと云って逃げるのに今日は少し風向が狂った□(と思ったが、のりかけた舟、しかたがないと身がまえする。は「コッ」と掛声をして飛び上って顔をつっつこうとする。手をのばして「ドン」と向うにとばしてやる。バサバサと羽ばたきして足にかかっ・・・ 宮本百合子 「三年前」
出典:青空文庫