・・・ 私はこれらの風潮を、ただ見送った。 × プロレタリヤ独裁。 それには、たしかに、新しい感覚があった。協調ではないのである。独裁である。相手を例外なくたたきつけるのである。金持は皆わるい。貴族は皆わるい。金の・・・ 太宰治 「苦悩の年鑑」
・・・わたくしは老後の余生を偸むについては、唯世の風潮に従って、その日その日を送りすごして行けばよい。雷同し謳歌して行くより外には安全なる処世の道はないように考えられている。この場合わが身一つの外に、三界の首枷というもののないことは、誠にこの上も・・・ 永井荷風 「西瓜」
・・・私は画の方は心得がないから、何とも申しかねるが、あれは仏国の現代の風潮が東漸した結果ではないでしょうか。とにかく、画でも詩でも文でも構わない。感覚物として見たる人間がすでに感覚物の一部分に過ぎん上に、美的情操と云うのがまた、この感覚物として・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・高山が出た時代からぐっと風潮が変わってきた。上田敏君もこの期に属している。この期にはなかなかやり手がたくさんいる。僕らはそのまえのいわゆる沈滞時代に属するのだ。 学校を出てから、伊予の松山の中学の教師にしばらく行った。あの『坊っちゃん』・・・ 夏目漱石 「僕の昔」
・・・果して然らんには甘んじて之に従い之に謀る可しと雖も、今の世間の風潮に於ては其保証頗る疑わし。我輩は婦人の為めに謀り、軽々女大学の文に斯かれずして自尊自重、静に自身の権利を護らんことを勧告するものなり。 又云く、古の法に女子を産めば三日床・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ 然るに近日、世間の風潮をみるに、政治家なる者が教育の学校を自家の便に利用するか、または政治の気風が自然に教場に浸入したるものか、その教員生徒にして政の主義をかれこれと評論して、おのずから好悪するところのものあるが如し。政治家の不注意と・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・我輩の持論は其再縁を主張する者なれども、日本社会の風潮甚だ冷淡にして、学者間にも再縁論を論ずる者少なきのみか、寡居を以て恰も婦人の美徳と認め、貞婦二夫に見えずなど根拠もなき愚説を喋々して、却て再縁を妨ぐるの風あるこそ遺憾なれ。古人の言う二夫・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・ はなはだしきは道徳教育論に喋々するその本人が、往々開進の風潮に乗じて、利を射り、名を貪り、犯すべからざるの不品行を犯し、忍ぶべからざるの刻薄を忍び、古代の縄墨をもって糺すときは、父子君臣、夫婦長幼の大倫も、あるいは明を失して危きが如く・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・ 古来の習慣に従えば、凡そこの種の人は遁世出家して死者の菩提を弔うの例もあれども、今の世間の風潮にて出家落飾も不似合とならば、ただその身を社会の暗処に隠してその生活を質素にし、一切万事控目にして世間の耳目に触れざるの覚悟こそ本意なれ。・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
科学への関心が、いくらか流行の風潮ともなって、昨今たかめられて来ている。いろいろの面から観察されることだろうが、私として頻りに考えられることは、そういう今日の傾向のなかで、科学知識と科学の精神という二つのものが、どんな工合・・・ 宮本百合子 「科学の精神を」
出典:青空文庫