・・・ 中国、朝鮮、日本などのように、封建的な社会の風習と、資本主義社会の苛酷な婦人の労働力に対する搾取とが重なりあっているところでは、特に婦人のすべての重荷と悲運が、婦人問題としてだけでは解決されない。日本の社会そのものが、根本から変ってゆ・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・ 全篇の結論として、目下問題とされている家族制度、家庭生活改善の理想を徒に外国の風習などに摸倣せず、日本は日本民族独特の見地から、識見を以て発足すべきであると云う主旨には、恐らく何人も意義を挾む者はないでしょう。 あらゆる国々の習俗・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・政治上の権力においても、又風習においても。ヨーロッパよりも六七十年おくれて、民主社会にふみ出そうとしている日本では、おくれているだけに事情は複雑で、過去のモラルの形式は、急速に現実の風波にさらされ、再評価されつつある。貞操という種類の言葉が・・・ 宮本百合子 「貞操について」
・・・偽善的な、形式的な、人の思惑ばかりを気にしている日本の封建的な社会風習に対して、この作家は「雄々しく堕落せよ」と叫んでいる。様々の、情熱を失った道義観やきれいごとの底を割って人間のぎりぎりの姿を露呈させよ、という。そして肉体の経験、その中で・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・ 考えてみれば、女性の問題といえば先ずその性にばかり重点をおく風習は、一つの封建遺風ではなかろうか。 婦人参政に関しても、道義というものは当然あるわけだ。それがすたれ、或は穢されるということのあり得る事実も明白である。 進歩党は・・・ 宮本百合子 「人間の道義」
・・・という木の枝を、その女の門口にさしておくという風習があって、その枝が取入れられれば承知したことになり、若し女が承知しない時には、後からあとから、幾本かの錦木が立ち並んだままに捨てて置かれるという話を書いたもので、そのあたりの様子や、女の家の・・・ 宮本百合子 「昔の思い出」
・・・ 今日娘の身売りは、道徳的な方面からだけ問題を見る方向へそらされて、徳川時代から引つづいたそのような風習の根源である、東北の農民の歴史的窮乏の経済的原因は、後の方へ引とめられている。もし愛国婦人会や矯風会が本当にそういう事を防止するため・・・ 宮本百合子 「村からの娘」
・・・昔の日本の風習には、感情の表現にブレーキをかけるという特徴があったと思う。その点で漱石は前の世代の人であった。それだけに漱石は、言葉に現わさずとも心が通じ合うということ、すなわち昔の人のいう「気働き」を求めていたと思う。 そういう漱石が・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
・・・多くの人の言動には卑しい動機が見えすいて感じられた。風習と道徳には虚偽が匂った。私はそれを嘲笑せずにはいられない気持ちであった。そうして自分の態度の軽薄には気づかなかった。 これに気づいたのは私には一つの契機であった。私は自分の過去を恥・・・ 和辻哲郎 「転向」
・・・ただ漫然と風習に従って土下座したに過ぎぬのです。しかるに自分の身をこういう形に置いたということで、自分にも思いがけぬような謙遜な気持ちになれたのです。彼はこの時、銅色の足と自分との関係が、やっと正しい位置に戻されたという気がしました。そうし・・・ 和辻哲郎 「土下座」
出典:青空文庫