・・・なお面白いのは日が高くなるにつれて椎茸が次第に縮んで、おしまいにはもう椎茸とも何とも分らぬものになって石ころ道の上を飛び飛び転がって行く。少し厭き気味になると父上に謡をうたえの話をせよのとねだっているうちに日が西に傾く。しかし今度は朝のよう・・・ 寺田寅彦 「車」
・・・と出たらめの唱歌のようなものを歌って飛び飛びしながらまた拾い始める。余はその罪のない横顔をじっと見入って、亡妻のあらゆる短所と長所、どんぐりのすきな事も折り鶴のじょうずな事も、なんにも遺伝してさしつかえはないが、始めと終わりの悲惨であった母・・・ 寺田寅彦 「どんぐり」
・・・ この頃の若い女の人は随分飛び飛びな種々な色を身につける。 髪に新ダイヤが輝いて赤い「ツマミ細工」のものなんかも一緒に居る。 それでも夏はそれほどひどくは気にならないけれど冬羽織着物、下着、半衿とあんまり違う色を用うのは千世子は・・・ 宮本百合子 「千世子(二)」
・・・それを這入ると、向うに煤けたような古家の玄関が見えているが、そこまで行く間が、左右を外囲よりずっと低いかなめ垣で為切った道になっていて、長方形の花崗石が飛び飛びに敷いてある。僕に背中を見せて歩いていた、偶然の先導者はもう無事に玄関近くまで行・・・ 森鴎外 「百物語」
出典:青空文庫