・・・ソロモンはかの女と問答をするたびに彼の心の飛躍するのを感じた。それはどういう魔術師と星占いの秘密を論じ合う時でも感じたことのない喜びだった。彼は二度でも三度でも、――或は一生の間でもあの威厳のあるシバの女王と話していたいのに違いなかった。・・・ 芥川竜之介 「三つのなぜ」
・・・人間の思想はその一特色として飛躍的な傾向をもっている。事実の障礙を乗り越して或る要求を具体化しようとする。もし思想からこの特色を控除したら、おそらく思想の生命は半ば失われてしまうであろう。思想は事実を芸術化することである。歴史をその純粋な現・・・ 有島武郎 「広津氏に答う」
・・・どっちかといえば、内気な、鈍重な、感情を表面に表わすことをあまりしない、思想の上でも飛躍的な思想を表わさない性質で、色彩にすれば暗い色彩であると考えている。したがって境遇に反応してとっさに動くことができない。時々私は思いもよらないようなこと・・・ 有島武郎 「私の父と母」
・・・が、天下の大富豪と仰がれるようになったのは全く椿岳の兄の八兵衛の奮闘努力に由るので、幕末における伊藤八兵衛の事業は江戸の商人の掉尾の大飛躍であると共に、明治の商業史の第一頁を作っておる。 椿岳の米三郎が淡島屋の養子となったは兄伊藤八兵衛・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・茲で小生は博文館の頌徳表を書くのでないから、一々繰返して讃美する必要は無いが、博文館が日本の雑誌界に大飛躍を試みて、従来半ば道楽仕事であった雑誌をビジネスとして立派に確立するを得せしめ、且雑誌の編纂及び寄書に対する報酬をも厚うして、夫までは・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・「その時が日本の驥足を伸ぶべき時、自分が一世一代の飛躍を試むべき時だ」と畑水練の気焔を良く挙げたもんだ。 果然革命は欧洲戦を導火線として突然爆発した。が、誰も多少予想していないじゃないが余り迅雷疾風的だったから誰も面喰ってしまった。その・・・ 内田魯庵 「二葉亭追録」
・・・前進一路、人類の目的を達せんとするのが、即ち革命であり、また人類の飛躍ではあるのです。そして、同じく責任を感じ、志を共にするものゝみが、新しい世界を創生する。 社会運動に、芸術運動に、また宗教運動に、同じ人類の胸に打つ心臓の響きに変りが・・・ 小川未明 「芸術は革命的精神に醗酵す」
・・・ 人生の進歩というものは徐々として、時に破壊と建設の姿をとる場合もあるけれど又急速に飛躍して、其れを達しようとする場合もある。今私達の気持はどの点においても慌だしさを感じている事は事実だ。最も敏感である詩人に、この気持が分らない筈がない・・・ 小川未明 「詩の精神は移動す」
・・・ 本当の芸術は現在の生活から飛躍した生活を暗示するものでなくてはならない。卑近な眼界からヨリ遠い人間生活の視野を望ましめるものでなくてはならぬ。此の力を欠いているものは謂わゆる現実性を欠いた芸術である。現実性のある文芸のみが、民衆の文芸・・・ 小川未明 「囚われたる現文壇」
・・・唯物史観は真理であるけれども、人間の精神的の飛躍がなかったら創造されぬ如く、感情の真も知識の真も畢竟するところ合致すべき一点があるように考えられる。二 その話は別として、先般の反キリスト教同盟というものは、まさに昨年四月から北京・・・ 小川未明 「反キリスト教運動」
出典:青空文庫