・・・ と訊くから、そういうのが、慌てる銃猟家だの、魔のさした猟師に、峰越しの笹原から狙い撃ちに二つ弾丸を食らうんです。……場所と言い……時刻と言い……昔から、夜待ち、あけ方の鳥あみには、魔がさして、怪しいことがあると言うが、まったくそれは魔がさ・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・ただ動き、ただ歩み、ただ食らう。食らう時かたわらよりうまきやと問えばアクセントなき言葉にてうましと答うその声は地の底にて響くがごとし。戯れに棒振りあげて彼の頭上に翳せば、笑うごとき面持してゆるやかに歩みを運ぶ様は主人に叱られし犬の尾振りつつ・・・ 国木田独歩 「源おじ」
・・・ 彼は計画どおり三カ月の糧を蓄えて上京したけれども、坐してこれを食らう男ではなかった。 何がなおもしろい職を得たいものと、まず東京じゅうを足に任かして遍巡り歩いた。そして思いついたのは新聞売りと砂書き。九段の公園で砂書きの翁を見て、・・・ 国木田独歩 「非凡なる凡人」
出典:青空文庫