・・・しかし俺がいなかったら、おまえたちは飢え死にをするよりしかたないところだったんだ。沢本 まあいいから、貴様の計画というものの報告を早くしろ。花田 そうだ。ぐずぐずしちゃいられない。おい青島、堂脇は九頭竜の奴といっしょに来るといっ・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・にふっといなくなり、それっきりまた三晩も四晩も帰らず、古くからの夫の知合いの出版のほうのお方が二、三人、そのひとたちが私と坊やの身を案じて下さって、時たまお金を持って来てくれますので、どうやら私たちも飢え死にせずにきょうまで暮してまいりまし・・・ 太宰治 「ヴィヨンの妻」
・・・手を触れるものがみんな黄金になるのでは飢え死にするほかはない。 職業的案内者がこのような不幸な境界に陥らぬためには絶えざる努力が必要である。自分の日々説明している物を絶えず新しい目で見直して二日に一度あるいは一月に一度でも何かしら今まで・・・ 寺田寅彦 「案内者」
・・・鳥もけものも、みな飢え死にじゃ人もばたばた倒れたじゃ。もう炎天と飢渇の為に人にも鳥にも、親兄弟の見さかいなく、この世からなる餓鬼道じゃ。その時疾翔大力は、まだ力ない雀でござらしゃったなれど、つくづくこれをご覧じて、世の浅間しさはかなさに、泪・・・ 宮沢賢治 「二十六夜」
出典:青空文庫