・・・車蝦の小蝦は、飴色に重って萌葱の脚をぴんと跳ねる。魴ほうぼうの鰭は虹を刻み、飯鮹の紫は五つばかり、断れた雲のようにふらふらする……こち、めばる、青、鼠、樺色のその小魚の色に照映えて、黄なる蕈は美しかった。 山国に育ったから、学問の上の知・・・ 泉鏡花 「小春の狐」
・・・低い天井板が飴色にすすけてところどころ煤が垂れていた。 龍介は虚ろな気持で天井を見ながら「ばか」声を出してひくく言ってみた。「ばか!」少し大きくした。そしてその余韻をきいてみた。するときゅうに大きく「ばかッ」と怒鳴りたくなった。・・・ 小林多喜二 「雪の夜」
・・・線路に沿うたとある森影から青い洋服を着て、ミレーの種まく男の着ているような帽子をかぶった若者が、一匹の飴色の小牛を追うて出て来た。牛の毛色が燃えるように光って見えた。それはどうしてもこの世のものではなくてだれかの名画の中の世界が眼前に生きて・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・朝は、黄金色のお日さまの光が、とうもろこしの影法師を二千六百寸も遠くへ投げ出すころからさっぱりした空気をすぱすぱ吸って働き出し、夕方は、お日さまの光が木や草の緑を飴色にうきうきさせるまで歌ったり笑ったり叫んだりして仕事をしました。殊にあらし・・・ 宮沢賢治 「カイロ団長」
・・・白と飴色のまだら、白黒のまだら。ちょっとおしりのところと角のところだけ黒くて、あとは白いの。子供たちは竹垣のやぶれに並んで、牛を眺めたまま、ほとんど口をきかなかった。あんまり牛はおもしろかったし、いくらかこわくもあった。牛たちは、おだやかで・・・ 宮本百合子 「道灌山」
出典:青空文庫