・・・いつ弾丸の餌食になるか分らない危険な仕事は、すべて日本兵がやらせられている。共同出兵と云っている癖に、アメリカ兵は、たゞ町の兵営でペーチカに温まり、午後には若い女をあさりにロシア人の家へ出かけて行く。そこで偽札を水のように撒きちらす。それが・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・ 鰯が鯨の餌食となり、雀が鷹の餌食となり、羊が狼の餌食となる動物の世界から進化して、まだ幾万年しかへていない人間社会にあって、つねに弱肉強食の修羅場を演じ、多数の弱者が直接・間接に生存競争の犠牲となるのは、目下のところやむをえぬ現象で、・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・ 鰯が鯨の餌食となり、雀が鷹の餌食となり、羊が狼の餌食となる動物の世界から進化して、尚だ幾万年しか経ない人間社会に在って、常に弱肉強食の修羅場を演じ、多数の弱者が直接・間接に生存競争の犠牲となるのは、目下の所は已むを得ぬ現象で、天寿を全・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・彼らはかくしてついに宿命の鬼の餌食となる。明日食われるか明後日食われるかあるいはまた十年の後に食われるか鬼よりほかに知るものはない。この門に横付につく舟の中に坐している罪人の途中の心はどんなであったろう。櫂がしわる時、雫が舟縁に滴たる時、漕・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・平生の志の百分の一も仕遂げる事が出来ずに空しく壇の浦のほとりに水葬せられて平家蟹の餌食となるのだと思うと如何にも残念でたまらぬ。この夜から咯血の度は一層烈くなった。固より船中の事で血を吐き出す器もないから出るだけの血は尽く呑み込んでしまわね・・・ 正岡子規 「病」
・・・復し下の模様を見てあれば、いかにもその子は勢も増し、ただいたけなく悦んでいる如くなれども、親はかの実も自らは口にせなんじゃ、いよいよ餓えて倒れるようす、疾翔大力これを見て、はやこの上はこの身を以て親の餌食とならんものと、いきなり堅く身をちぢ・・・ 宮沢賢治 「二十六夜」
・・・吉本興業のような漫才発明の興行者から、今度除名された講談社まで、彼等の尨大な富は、地方を文化の市場として、地方の低さを餌食にして、築き上げられたのである。 都会の文化と地方の文化とは分裂させられていた。企業家にとって、地方は、文化的殖民・・・ 宮本百合子 「木の芽だち」
・・・何十万人かがその餌食とされた。生きのこった妻たちは、今日新しいヨーロッパの目ざめとともに、何を思い何を欲し、そして何を打ち立てようと希っている未亡人たちであろうか。 ナチスは、ユダヤ人をいためつけたばかりでなく、そういう行為は人道にもと・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
・・・イギリスの母たちは、「わたしたちの息子は大砲の餌食ではない」と書いたプラカードを立てて整列した。 現在、地球のいくところかで戦争行為が行われている。けれども、世界の声は、何を叫んでいるだろうか、平和である。 国連は、いろいろの矛盾に・・・ 宮本百合子 「世界は求めている、平和を!」
・・・われているような自由は常にどこにおいてでもなり立つものであろうかという、煙のように日常の生活から湧く疑い、それはとつおいつものを考える癖に陥っているインテリゲンチアに一つのかみ切ることのできない観念的餌食を与えることとなって、作品の刺戟と魅・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
出典:青空文庫