・・・やっぱり饂飩にして置くか」と圭さんが、あすの昼飯の相談をする。「饂飩はよすよ。ここいらの饂飩はまるで杉箸を食うようで腹が突張ってたまらない」「では蕎麦か」「蕎麦も御免だ。僕は麺類じゃ、とても凌げない男だから」「じゃ何を食うつ・・・ 夏目漱石 「二百十日」
・・・ 軍事経済政策で日用品の物価はこの五ヵ月間に三割近くあがったが、損をしないためには、「干饂飩なんかは一年分位買いため」「米の如きも少しは買いためておけば」いい。そういうことが書いてある。 これを読んで「ふん」と思わないものがあるだろ・・・ 宮本百合子 「『キング』で得をするのは誰か」
・・・ 極澹泊な独身生活をしている主人は、下女の竹に饂飩の玉を買って来させて、台所で煮させて、二人に酒を出した。この家では茶を煮るときは、名物の鶴の子より旨いというので、焼芋を買わせる。常磐橋の辻から、京町へ曲がる角に釜を据えて、手拭を被った・・・ 森鴎外 「独身」
出典:青空文庫