・・・を材料に得意の饒舌を闘わせた。「さすがは、大名道具だて。」「同じ道具でも、ああ云う物は、つぶしが利きやす。」「質に置いたら、何両貸す事かの。」「貴公じゃあるまいし、誰が質になんぞ、置くものか。」 ざっと、こんな調子である・・・ 芥川竜之介 「煙管」
・・・あれはあの男もうろたえた余り、日本語と琉球語とを交る交る、饒舌っていたのに違いあるまい。おれはともかくも船と云うから、早速浜べへ出かけて見た。すると浜べにはいつのまにか、土人が大勢集っている。その上に高い帆柱のあるのが、云うまでもない迎いの・・・ 芥川竜之介 「俊寛」
・・・もう僕も饒舌はいいかげんにする。兄は僕が創作ができないのをどうしたというが、あの「宣言一つ」一つを吐き出すまでにもいいかげん胸がつかえていたのでできなかったのだ。僕の生活にも春が来たらあるいは何かできるかもしれない。反対にできないかもしれな・・・ 有島武郎 「片信」
・・・「むむ、じゃ話すだがね、おらが饒舌ったって、皆にいっちゃ不可えだぜ。」「誰が、そんなことをいうもんですか。」「お浜ッ児にも内証だよ。」 と密と伸上ってまた縁側から納戸の母衣蚊帳を差覗く。「嬰児が、何を知ってさ。」「そ・・・ 泉鏡花 「海異記」
・・・――漁場へ遁げりゃ、それ、なかまへ饒舌る。加勢と来るだ。」「それだ。」「村の方へ走ったで、留守は、女子供だ。相談ぶつでもねえで、すぐ引返して、しめた事よ。お前らと、己とで、河童に劫されたでは、うつむけにも仰向けにも、この顔さ立ちっこ・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・要旨を掻摘むと、およそ弁論の雄というは無用の饒舌を弄する謂ではない、鴎外は無用の雑談冗弁をこそ好まないが、かつてザクセンの建築学会で日本家屋論を講演した事がある、邦人にして独逸語を以て独逸人の前で演説したのは余を以て嚆矢とすというような論鋒・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・ドチラかというと寡言の方で、眼と唇辺に冷やかな微笑を寄せつつ黙して人の饒舌を聞き、時々低い沈着いた透徹るような声でプツリと止めを刺すような警句を吐いてはニヤリと笑った。 緑雨の随筆、例えば『おぼえ帳』というようなものを見ると、警句の連発・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・はいつもの饒舌癖がかえって大阪の有閑マダムがややこしく入り組んだ男女関係のいきさつを判らせようとして、こまごまだらだらと喋っているという効果を出しているし、大阪弁も女専の国文科を卒業した生粋の大阪の娘を二人まで助手に雇って、書いたものだけに・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・すると、そのお友達はお饒舌の上に随分屁理屈屋さんで、だから奥さん、あなたは幸福ですよ。そして言うことには、僕の知ってる男で、嘘じゃない、六十回見合いをした奴がいます。それというのも奴さんも奴さんだが、奴さんのおふくろというのが俗にいう女傑な・・・ 織田作之助 「天衣無縫」
・・・それは春先する、おもしろそうな、笑うようなさざめきでもなく、夏のゆるやかなそよぎでもなく、永たらしい話し声でもなく、また末の秋のおどおどした、うそさぶそうなお饒舌りでもなかったが、ただようやく聞取れるか聞取れぬほどのしめやかな私語の声であっ・・・ 国木田独歩 「武蔵野」
出典:青空文庫