・・・の仕方とかがまた自然私の今日までやった学問やら研究に煩わされてどうも好きな方ばかりへ傾きやすいのは免かれがたいところでありますから、職業の如何、興味の如何に依っては、誠に面白くない駄弁に始って下らない饒舌に終ることだろうと思うのです。のみな・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・それ故に孤独者は常に最も饒舌の者である。そして尚ボードレエルの言うように、僕もまたそのように、都会の雑沓の中をうろついたり、反響もない読者を相手にして、用にも立たぬ独語などをしゃべって居る。 町へ行くときも、酒を飲むときも、女と遊ぶとき・・・ 萩原朔太郎 「僕の孤独癖について」
・・・鋭い声の、あれが泣饒舌と云うのかも知れませんね。『兄さん、貴方は死んで呉れちゃいやですよ。決して死ぬんじゃありませんよ。貴方は普通の兵士ですよ。戦争の時、死ぬ為に、平生から扶持を受けてる人達とは違ってよ。兄さん自分から好んで、』 強・・・ 広津柳浪 「昇降場」
・・・一 教育の進歩と共に婦人が身柄にあるまじきことを饒舌り、甚だしきは奇怪千万なる語を用いて平気なるは、浅見自から知らざるの罪にして唯憐む可きのみ。其原因様々なる中にも、少小の時より教育の方針を誤りて自尊自重の徳義を軽んじ、万有自然の数理を・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・されど若し其の身のある調子とか意気な調子とかいうものは如何なもので御座る、拙者未だ之を食うたことは御座らぬと、剽軽者あって問を起したらんには、よしや富婁那の弁ありて一年三百六十日饒舌り続けに饒舌りしとて此返答は為切れまじ。さる無駄口に暇潰さ・・・ 二葉亭四迷 「小説総論」
・・・あの男が下らぬ事を饒舌ったので、己まで気が狂ったのでもあるまい。人の手で弾くヴァイオリンからこんな音の出るのを聞いたことはこれまでに無いようだ。(右の方に向き、耳を聳何だか年頃聞きたく思っても聞かれなかった調ででもあるように、身に沁みて聞え・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・ 知識欲のさかんな若い人々、レーニンが云っているように向上心にもえ、階級の武器として、あらゆる知識をもちたいと思っている優秀な労働者たちが、その知識慾を餌じきにされて、きたならしい饒舌、ダイジェスト文化に、時間と金を吸いとられ、頭脳をか・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・小川は省内での饒舌家で、木村はいつもうるさく思っているが、そんな素振はしないように努めている。先方は持病の起ったように、調子附いて来た。「しかし、君、ルウズウェルトの方々で遣っている演説を読んでいるだろうね。あの先生が口で言っているように行・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・「勝手に饒舌ってよ!」「要らんことばっかしてな。お前ら自家の財産減らすことより考えやせんのや。」「安次の一疋やそこら何んじゃ。それに組へのこのこ出かけていって恰好の悪いこと知らんのか!」「何を云うのや、お前!」 お霜は勘・・・ 横光利一 「南北」
・・・四 フランスやイタリアの作家には饒舌が眼につく。私はダヌンチオやブウルジェエの冗漫に堪え切れない。トルストイに至ってはさすがに偉大である。たとえばあの大部なアンナ・カレニナのどのページを取ってみても、私は極度に緊縮と充実とを・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
出典:青空文庫