・・・彼の熱情は群衆に感染して、克服しつつ、彼の街頭宣伝は首都における一つの「事件」となってきた。 既成教団の迫害が生ずるのはいうまでもない成行きであった。また鎌倉政庁の耳目を聳動させたのももとよりのことであった。 法華経を広める者には必・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・こういう珍しい千代紙式に多様な模様を染め付けられた国の首都としての東京市街であってみれば、おもちゃ箱やごみ箱を引っくり返したような乱雑さ、ないしはつづれの錦の美しさが至るところに見いだされてもそれは別に不思議なことでもなければ、慨嘆するにも・・・ 寺田寅彦 「カメラをさげて」
・・・ 関東大震後に私は首都の枢要部をことごとく地下に埋めてしまうという方法を考えたことがある。重要な官衙や公共設備のビルディングを地上百尺の代わりに地下百尺あるいは二百尺に築造し、地上は全部公園と安息所にしてしまう。これならば大地震があって・・・ 寺田寅彦 「地図をながめて」
・・・昼間見ると乞食王国の首都かと思うほどきたないながめであったが、夜目にはそれがいかにも涼しげに見えた。父は長い年月熊本に勤めていた留守で、母と祖母と自分と三人だけで暮らしていたころの事である。一夏に一度か二度かは母に連れられて、この南磧の涼み・・・ 寺田寅彦 「涼味数題」
・・・一国の首都がその権勢と富貴とに自から蒐集する凡ての物は、皆ここに陳列せられてある。われわれは新しい流行の帽子を買うためにも、遠い国から来た葡萄酒を買うためにも、無論この銀座へ来ねばならぬが、それと同時に、有楽座などで聞く事を好まない「昔」の・・・ 永井荷風 「銀座」
・・・服装のみならず、その容貌もまた東京の町のいずこにも見られるようなもので、即ち、看護婦、派出婦、下婢、女給、女車掌、女店員など、地方からこの首都に集って来る若い女の顔である。現代民衆的婦人の顔とでも言うべきものであろう。この顔にはいろいろの種・・・ 永井荷風 「寺じまの記」
・・・ 須利耶さまは童子を十二のとき、少し離れた首都のある外道の塾にお入れなさいました。 童子の母さまは、一生けん命機を織って、塾料や小遣いやらを拵らえてお送りなさいました。 冬が近くて、天山はもうまっ白になり、桑の葉が黄いろに枯れて・・・ 宮沢賢治 「雁の童子」
・・・ アメリカは勿論のこと、イギリスでもフランスでも、文化の中心は決してただ一ヵ所の首都に集注されてはいない。ボストンだけが文化の中心ではないし、パリだけが文化の中軸をなしていると云えない。それぞれの国は、各地方に、独自的な伝統と特色とをゆ・・・ 宮本百合子 「木の芽だち」
・・・ハリコフ市はそういう点から一つの新しい民族首都である。ここを選んで国際的な革命作家の会議が行われたことは輝かしい。 会議は十一月六日から十五日まで続いた。二十二人の資本主義国、植民地、半植民地から革命的作家が集った。 代表によって各・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ だが、モスクワそのものを、本当にソヴェトの首都にふさわしい社会主義都市に根柢からかえることは可能だろうか? モスクワはモスクワとして、歴史的な美しい寺院のいろいろな円屋根を真白い厳寒の中にきらめかせればよい。そして、ストラスナーヤ僧院・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
出典:青空文庫