・・・菱の花が白く咲く一番池のぐるりは夏草の高く茂った馬場で、夏そこへ寝ころんで夕焼けを見ていると、いつしか体が夏草の中から泛んで七色八色の鱗雲の間をゆるく飛んで行くような気がした。そんな景色と村道の赭土にくっきり車の軌の跡のめりこんだ荒涼とした・・・ 宮本百合子 「青春」
日本は誰のものか。八月十四日の読売新聞で、吉田茂、馬場恒吾の対談の大見出しをみてはげしい反問を感じなかったひとは、一人もなかったろう。「日本の進路」について、何よりも先に「外国人の安住地に」と大見出しがつくような話をする一・・・ 宮本百合子 「日本は誰のものか」
・・・ ところが事件の十五日夜アリバイがはっきりしているために「やや焦燥の色濃い東京地検堀検事正、馬場次席検事は」「教唆罪もあり得る」と語っている。検事のこの言葉は「あり得る」あらゆる罪名をもって飯田、山本両氏を犯人にしようとしているような感・・・ 宮本百合子 「犯人」
・・・ 福沢諭吉は勿論のこと、東海散士、末広鉄腸、川島忠之助、馬場辰猪等にしろ、自身と専門的な作家、小説家の生活とを結びつけることなど夢想さえしなかったに違いない。川島忠之助は正金銀行の支配人として活躍したし、東海散士、柴四朗は農商務次官、代・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
出典:青空文庫