・・・しかし、彼等には、やはり、話にきいた土匪や馬賊の惨虐さが頭にこびりついていた。劣勢の場合には尻をまくって逃げだすが、優勢だと、図に乗って徹底的な惨虐性を発揮してくる。そういう話が、たった八人の彼等を、おびやかすのだった。本隊を遠く離れると、・・・ 黒島伝治 「前哨」
・・・それは馬賊か、パルチザンに相違なかった。 小村は、脚が麻痺したようになって立上れなかった。「おい、逃げよう。」吉田が云った。「一寸、待ってくれ!」 小村はどうしても脚が立たなかった。「おじるこたない。大丈夫だ。」吉田は云・・・ 黒島伝治 「雪のシベリア」
・・・とかいう馬賊の歌を聞かされ、あまりのおそろしさに、ちっともこっちは酔えなかったという思い出がある。そうして、彼がそのチャンポンをやって、「どれ、小便をして来よう。」と言って巨躯をゆさぶって立ち上り、その小山の如きうしろ姿を横目で見て、ほとん・・・ 太宰治 「酒の追憶」
・・・やっと婚礼の轎が門に入ったばかりの時、大部隊の兵が部落に乱入して来て、逃げ出した新夫婦は、二日目の夜馬賊に襲撃されて又逃げるとき、遂にちりぢりとなった。その時より四五年経った。彼女の几帳面さと清潔とを見出されて、或る西洋人の阿媽となったが、・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・ それどころか、そもそも彼をして馬賊に面会させるに至った満蒙事件の、日本の帝国主義の経済的・政治的原因については一言の感想も説明も加えられていない。第三の満鉄讚美にいたっては、笑止千万である。この社会ファシストの代表は、満鉄が不明の活動・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
出典:青空文庫