・・・ Aは、私一人に深く結びついては居ても他には父を除いて余り馴染みない周囲に対して、そう自由には振舞えない。彼の性格が、そんな呑気さを許さない。従って、どうしても、自分等の場所と定った部屋に籠って、私を傍に持ちたいのである。 然し、長・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
・・・そう思い、そしてゴーリキイの馴染み深い、重い髭のある顔と、広い肩つきとを思い浮べるのであった。 一九三二年以後のゴーリキイ、芸術に於ける社会主義リアリズムの問題がとり上げられるようになって後のゴーリキイは、世界の文化にとって独特の影響を・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ たとえ娘の室は立派に独立していたとして、余程鈍感な娘さんならともかく、さもなければ、やはり、友達のものではない周囲の支配的な雰囲気に対して、居馴染みかねるものがある。お嬢さんをきらい娘という呼びかたをこのむ心理はここにもお互に作用して・・・ 宮本百合子 「若い娘の倫理」
・・・五年の間に非常なテムポですすめられたソヴェト同盟の社会的建設の成果を、文学的・文化的前進の姿をこの馴染みふかい大衆からの作家であるゴーリキイは何とみるであろうか。 ゴーリキイが帰ってくるということがきまった春、モスクワ、レーニングラード・・・ 宮本百合子 「私の会ったゴーリキイ」
・・・ 目の前にあるあらゆる顔、あらゆる家具は、彼女にとって皆馴染み深い、懐しいものばかりである。 丁度今頃、矢張り斯うやって同じディブァンの上に坐り乍ら、何度、斯様な賑やかな睦しい同胞共の様子を眺めて来ただろう。 けれども、今自分の・・・ 宮本百合子 「われらの家」
・・・光尚も思慮ある大名ではあったが、まだ物馴れぬときのことで、弥一右衛門や嫡子権兵衛と懇意でないために、思いやりがなく、自分の手元に使って馴染みのある市太夫がために加増になるというところに目をつけて、外記の言を用いたのである。 十八人の侍が・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫