・・・こう云う傾向の存する限り、絵画から伝説を駆逐したように、文芸からも思想を駆逐せんとする、芸術上の一神論には、菊池の作品の大部分は、十分の満足を与えないであろう。 この二点のいずれかに立てば、菊池寛は芸術家かどうか、疑問であると云うのも困・・・ 芥川竜之介 「「菊池寛全集」の序」
・・・彼の前には巡洋艦や駆逐艇が何隻も出入していた。それから新らしい潜航艇や水上飛行機も見えないことはなかった。しかしそれ等は××には果なさを感じさせるばかりだった。××は照ったり曇ったりする横須賀軍港を見渡したまま、じっと彼の運命を待ちつづけて・・・ 芥川竜之介 「三つの窓」
・・・ まず溝を穿ちて水を注ぎ、ヒースと称する荒野の植物を駆逐し、これに代うるに馬鈴薯ならびに牧草をもってするのであります。このことはさほどの困難ではありませんでした。しかし難中の難事は荒地に樹を植ゆることでありました、このことについてダルガ・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・港の入口の暗礁へ一隻の駆逐艦が打つかって沈んでしまったのだ。鉄工所の人は小さなランチヘ波の凌ぎに長い竹竿を用意して荒天のなかを救助に向かった。しかし現場へ行って見ても小さなランチは波に揉まれるばかりで結局かえって邪魔をしに行ったようなことに・・・ 梶井基次郎 「海 断片」
・・・しかし自由を現象界から駆逐して英知的の事柄としたのでは、一般にカントの二元論となり終わり、われわれの意識を超越した英知的性格の行為にわれわれが責任を持つということが無意味になってしまう。 ハルトマンはかかる積極的な規定者がわれわれの意識・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ 支那人は、抑圧せられ、駆逐せられてなお、余喘を保っている資本主義的分子や、富農や意識の高まらない女たちをめがけて、贅沢品を持ちこんでくるのだ。一足の絹の靴下に五ルーブルから、八ルーブルの金を取って帰って行く。そして国境外では、サヴエー・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・を読み、否、読まされ、シルレルはその作品に於いて、人の性よりしてダス・ゲマイネを駆逐し、ウール・シュタンドに帰らせた。そこにこそ、まことの自由が生れた。そんな所論を見つけたわけだ。ケエベル先生は、かの、きよらなる顔をして、「私たち、なかなか・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・ こんな理由だけからでも、映画によってすべての文字を駆逐することは出来そうもない。しかしまた同じ理由によって文字では到底勤まらない役目を映画によって仕遂げることが出来るのである。云うまでもなく、朝顔を見たことのないエスキモー土人に朝顔を・・・ 寺田寅彦 「教育映画について」
・・・しかしまたピンヘッドやサンライズを駆逐して国産を宣伝した点では一種のファシストでもあったのである。彼もたしかに時代の新人ではあった。 旧時代のハイカラ岸田吟香の洋品店へ、Sちゃんが象印の歯みがきを買いに行ったら、どう聞き違えたものか、お・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・第五十一段の水車の失敗は先日の駆逐艦進水式の出来損ねを思い出させる。 知識とは少しちがう「智恵」については第三十八段に「智恵出でては偽あり」とか「学びてしるは、まことの智にあらず」などと云っているのは現代人にも思い当たるふしがあるであろ・・・ 寺田寅彦 「徒然草の鑑賞」
出典:青空文庫