一 朝飯がすんで、雑役が監房の前を雑巾がけしている。駒込署は古い建物で木造なのである。手拭を引さいた細紐を帯がわりにして、縞の着物を尻はし折りにした与太者の雑役が、ズブズブに濡らした雑巾で出来るだけゆ・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・[自注3]林町――本郷区駒込林町二一 百合子の実家。[自注4]父――百合子の実父、中條精一郎。一八六八年―一九三六年。建築家。[自注5]籍のこと――百合子入籍の件、顕治と百合子は一九三二年二月本郷駒込動坂町に新居をもった。一ヵ月・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
八月七日 [自注1]〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(代筆 モネー筆「断崖」」の絵はがき)〕 手紙に書きもらしましたから一寸。多賀ちゃんから先程手紙で、病気は何でもなく保健所でレントゲン透視をしてもらったら、どこ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 五月二十五日 〔市ヶ谷刑務所の顕治宛 本郷区駒込林町二一中條咲枝より[自注1]〕 きょうは御病気の様子が少しはっきりわかったのでいくらか安心いたしました。 面会の節、つい申すのを忘れましたが生玉子は白味をのぞいて黄味だ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 植木屋が入ったと見え、駒込の家の玄関傍に、始めて見る下草の植込みが拵えてあった。薄すり紫がかった桃色の細かい花が、繊い葉の間に咲いている。それを見ながら、なほ子は呼鈴も押さず、暗い板の間へ通って行った。茶の間の戸を開けようとしていると・・・ 宮本百合子 「白い蚊帳」
・・・順天堂でも患者をお茶の水に運び、精養軒へ行き駒込の佐藤邸へうつる迄に幾人も産をした。 ◎隅田川に無数の人間の死体が燃木の間にはさまって浮いて居る。女は上向き男は下向、川水が血と膏で染って居、吾嬬橋を工兵がなおして居る。 ◎殆ど野原で・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
・・・ 引越しの日は、晴れて暑い残暑の太陽が、広い駒込の通りを、かっと照して居た。 午前中本箱や夜具、トランク類を、石井の荷物自動車にのせ、英男が面白がって後につかまって送って行った。大工、善さん、おまつ等がAに手伝い、略、片がついたと思・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
・・・ 一九一八年十月二十三日〔東京市本郷区駒込林町二一 中條葭江宛 シカゴより〕 此頃のアメリカの新聞は、講和問題で賑って居ります。独逸が潜航艇を皆引上げそうな事を云ったり、平和を要求したりするような顔をするが、実は、羊の皮を着・・・ 宮本百合子 「日記・書簡」
・・・私は駒込署に検挙され、宮本顕治は非合法生活に入った。九月。日本プロレタリア文化連盟婦人協議会会議中、全員検挙、一ヵ月検束された。日本のファシズムと侵略戦争に反対し、勤労階級の社会的発言の一つの現われとして活動をはじめた「日本プロレタ・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・所轄署へ来いということです。所轄署駒込署へ行くと、中川というこれも文化団体弾圧専門の特高が待ちかまえていて、日本プロレタリア文化連盟のことで私を調べなければならぬということです。私は日本プロレタリア文化連盟の活動が、われわれ勤労大衆の現実の・・・ 宮本百合子 「ますます確りやりましょう」
出典:青空文庫