・・・こういう時代での生きかたとしては、或る場合、騒がしい立身出世の波をも静に自分たちの横を行きすぎさせておけるだけの真の落ちついた態度が、妻としての若い婦人に必要なこともあろう。キュリー夫人の伝記は、殆どあらゆる若い人々によまれたのであるが、キ・・・ 宮本百合子 「これから結婚する人の心持」
・・・ 其故同じアメリカでも、場所によっては、決して騒がしい女性許りではございません。 しっとりと、草の葉のさざめきに耳を傾ける人もございます。 私は、彼女等が圏境から与えられた騒躁な、騒躁でなければ居られない神経と云うものに、人間は・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ 初めの間は母に叱られるのを考えて足をムズムズさせながらも我慢して居たが、其等の騒がしい音は丁度楽隊が子供の心を引き付けるより以上の力で病室へ病室へと私の浮足たった霊を誘い寄せるのであった。 私の我慢は負けて仕舞った。 そして到・・・ 宮本百合子 「追憶」
・・・で母を書いている書きぶりは、五つで、もうあんまり母にかまわれなくなっている子供が、その母としてもその子としても避け難い力で、騒がしい無知な下層民の群の中に押しやられている姿として描いている。長い「家庭生活、家庭教育」で囲われたことのない、歩・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイによって描かれた婦人」
・・・カザン大学や宗教学校、獣医学校などの学生達及び「未来のロシアについての絶間ない不安の中に生活していた人々の騒がしい集り」であった。この集りの中に「神学校の学生でパンテレイモン・サトウという日本人さえいた」というのは、何と興味ある歴史の一頁で・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ 女房は夢のようにあたりの騒がしいのを聞いて、少し不安になって寝がえりをしたが、目はさめなかった。 三人の子供がそっと家を抜け出したのは、二番鶏の鳴くころであった。戸の外は霜の暁であった。提灯を持って、拍子木をたたいて来る夜回りのじ・・・ 森鴎外 「最後の一句」
・・・「ああ。騒がしい奴らであったぞ。月のおもしろさはこれからじゃ。また笛でも吹いて聞かせい」こう言って、甘利は若衆の膝を枕にして横になった。 若衆は笛を吹く。いつも不意に所望せられるので、身を放さずに持っている笛である。夜はしだいにふけ・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
・・・ 律師はしずかに口を開いた。騒がしい討手のものも、律師の姿を見ただけで黙ったので、声は隅々まで聞えた。「逃げた下人を捜しに来られたのじゃな。当山では住持のわしに言わずに人は留めぬ。わしが知らぬから、そのものは当山にいぬ。それはそれとして・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
・・・ただ少しへだたったところから騒がしい物音がするばかりである。大工がはいっているらしい物音である。外に板囲いのしてあるのを思い合せて、普請最中だなと思う。 誰も出迎える者がないので、真直ぐに歩いて、つき当って、右へ行こうか左へ行こうかと考・・・ 森鴎外 「普請中」
・・・まもなく海嶽楼は類焼したので、しばらく藩の上邸や下邸に入っていて、市中の騒がしい最中に、王子在領家村の農高橋善兵衛が弟政吉の家にひそんだ。須磨子は三年前に飫肥へ往ったので、仲平の隠家へは天野家から来た謙助の妻淑子と、前年八月に淑子の生んだ千・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫