・・・騒擾。女はみな悲鳴をあげてにげる。兵卒は足跡をたずねて、そこここを追いまわる。灯が消えて舞台が暗くなる。 ×AとBとマントルを着て出てくる。反対の方向から黒い覆面をした男が来る。うす暗がり。・・・ 芥川竜之介 「青年と死」
・・・しかしながらその結果は皇室に禍し、無政府主義者を殺し得ずしてかえって夥しい騒擾の種子を蒔いた。諸君は謀叛人を容るるの度量と、青書生に聴くの謙遜がなければならぬ。彼らの中には維新志士の腰について、多少先輩当年の苦心を知っている人もあるはず。よ・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・ 騒擾の際に敵味方相対し、その敵の中に謀臣ありて平和の説を唱え、たとい弐心を抱かざるも味方に利するところあれば、その時にはこれを奇貨として私にその人を厚遇すれども、干戈すでに収まりて戦勝の主領が社会の秩序を重んじ、新政府の基礎を固くして・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・然し一九三四年という年は二月のパリ騒擾事件におけるファシストの狂暴を契機として、フランス思想界に、左右の対立が歴然表面化した時であった。反ファシズム団体が政治的に結合したばかりでなく、文化を擁護するためにフランスの思想家、作家が反ファシスト・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・かつて初めて向陵の人となり今村先生に醇々として飲酒の戒を聞いたその夜、紛々たる酒気と囂々たる騒擾とをもって眠りを驚かす一群を見て嫌悪の念に堪えなかった。ああ暴飲と狂跳! 人はこれを充実せる元気の発露と言う。吾人は最も下劣なる肉的執着の表現と・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫