・・・私はドイツでも、堂々としたジーメンスの工場を見たが、その工場の内に働く者の幸福を高めるための技術を養う工場学校があり、しかも十八歳までは六時間労働、十六歳以下は四時間と、ちゃんと法律によって定め、その賃銀の払われる労働時間のうちに教育のため・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・その困難な実践をとおし、次代の建設との関連において、恋愛・結婚観も徐々に高められて今日に至っていることを私たちは見落してはならぬと思う。 階級的な男女の結合というと、すぐコロンタイの「赤い恋」が話題にのぼったのは、かれこれ七年くらい前の・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・人民層の多様さに応じた多様な歴史的善意が、それぞれの必然によって湧きたち、そのものとしてうけ入れられ、結合され高められつつあります。個人の善意がそのような形で結集しよりつよい形で生かされようとしています。 この新しい段階の多様な面白さ、・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・ 女の人間らしい慈愛のひろさにしろ、それを感情から情熱に高め、持続して、生活のうちに実現してゆくには巨大な意力が求められる。実現の方法、その可能の発見のためには、沈着な現実の観察と洞察とがいるが、それはやっぱり目の先三寸の態度では不可能・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・を失ったこの作者が、妻、母として、党員として東北の小さい町に負担の多い生活とたたかいながら一つ一つ作品を重ねて来ているうちに、次第に爆発的な悲憤と反抗とが、階級的な作家としてのリアリスティックな能力に高められつつある。 アグネス・スメド・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十五巻)」
・・・東京化学製造所長になって、二十五年の間に、初め基礎の危かった工場を、兎に角今の地位まで高めた理学博士増田翼はかく信じているのである。 製造所の創立第二十五年記念の宴会が紅葉館で開かれた。何某の講談は塩原多助一代記の一節で、その跡に時代な・・・ 森鴎外 「里芋の芽と不動の目」
・・・むしろ鑑賞者の生活を高め豊富にするということによって、間接に社会の秩序を高め風俗を善良にする。裸体の男女が相抱いている姿を描写した彫刻絵画も、それが芸術品でありまた芸術品として鑑賞される以上は、決して風俗を壊乱しない。しかし芸術品は必ずしも・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
・・・人間のあらゆる尊さ美しさは、間髪をいれず人間の肉体によって現わされ、直ちに逆に、人間の肉体を人間以上の神々しい清らかさにまで高めている。それは自然に即してしかも自然の奥秘を掘り出したものである。肉体のはかなさは、本来清浄なる人間の「心性」に・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
・・・この程度を高めることは、とりもなおさず「自然」を捕える程度が深くなることである。我々はこの程度を高め得た時にのみ、「自然を見ること」を誇り得るだろう。四 ところで内部に突き入ろうとする衝動を感じない人たちは、きわめて常識的な・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
・・・生を高めるとは活動を高める事である。従って活動が高まるとともに生の価値も高まる。人格価値というのも畢竟この活動にほかならない。活動の高昇はすなわち人格価値の高昇である。 ところでこの活動は同時にまた自己表現の活動である。私の心がある人の・・・ 和辻哲郎 「創作の心理について」
出典:青空文庫