・・・女学校を出たてのお嬢さんが結婚よりも女の独立を主張し、五十六十のお婆さんまでが洋服を着て若い女と一緒に参政権を絶叫し、台所のお爨どんまで時間制を高唱して労働運動に参加しようとする今日の思潮は世間の大勢で如何ともする事が出来ないのを、官僚も民・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・そしてかゝる芸術家は、眼前の社会に対して、最も真実であり、人間的愛を感ずる人道主義の高唱者に他ならないと私は感ずるものであります。 小川未明 「芸術は生動す」
・・・が高唱され、その終わりにはかの全く無意味でそして最も平民的なはやしのリフレインが朗々と付け加えられたのである。私はその時なんという事なしに矛盾不調和を感ずる一方では、またつめたい薄暗い岩室の中にそよそよと一陣の春風が吹き、一道の日光がさし込・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・時代と場所の限られたる範囲の興味が高唱されているだけに普遍性を損じやすい傾向がある。ことにそれが作者のある特別な政治的社会的の意見を表明する手段として使用されている場合には、その客観的真実性は著しく限定されて、むしろ一つの標本としての価値に・・・ 寺田寅彦 「漫画と科学」
・・・リゲンチアの知的自慰にすぎぬ不安の文学が、当然の結果として夢想しているように強烈な、ヨーロッパ的立体性をもった内容の新しい心境文学を創り出すことができないでいる間に、いい加減に残されていたリアリズムの高唱、明治文学再評価がかえって実際の実を・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・う強引な結論と政策によって今日圧殺されているのであるし、知識人の一部は、所謂進歩的といわれる知識人達が求めているような合理性や人間性の自覚とその発露の要求は民衆の心持の日常から遊離した夢、公式であると高唱して、知識人みずから人間的知性の殺滅・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
・・・ 極言すれば、理想を高唱するものも、それに鼓舞されて一躍新生涯を創始しようとする者も、またはそれを傍観するものも、共に、貧弱な沈潜力の所有者であるようにさえ感ぜられる。 強固に、深刻に人生の意識、人類の内容を考察する者が、どうしてよ・・・ 宮本百合子 「深く静に各自の路を見出せ」
出典:青空文庫