・・・ 一昨日松本で城を見て、天守に上って、その五層めの朝霜の高層に立って、ぞっとしたような、雲に連なる、山々のひしと再び窓に来て、身に迫るのを覚えもした。バスケットに、等閑に絡めたままの、城あとの崩れ堀の苔むす石垣を這って枯れ残った小さな蔦・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・かつて誰かが、ある関東の山の上で花火を上げて、高層気象の観測をやろうという提案をした事を思い出して、なるほどこれならば存外ものになりそうだと思いながら見ていた。 なお面白いのは一つ一つの煙の団塊の変形である。これがみな複雑な渦動の団塊で・・・ 寺田寅彦 「雑記(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・特に高層観測のごとき一層この限定を受くる事甚だし。それにもかかわらず現に天気予報がその科学的価値を認められ、実際上ある程度まで成効しおるは如何なる理由によるべきか。 数十里、数百里を距てたる測候所の観測を材料として吾人はいわゆる等温線、・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・ 火山から噴出した微塵が、高い気層に吹き上げられて高層に不断に吹いている風に乗って驚くべき遠距離に散布される事は珍しくない。クラカトア火山の爆破の時に飛ばされた塵は、世界中の各所に異常な夕陽の色を現わし、あるいは深夜の空に泛ぶ銀白色の雲・・・ 寺田寅彦 「塵埃と光」
・・・ドイツでは一八九九年以来高層気象観測所を公設し、ことにカイゼル自身がこの方に力瘤を入れて奨励した。カイゼルの胸裡にはその時既に空中襲英の問題が明らかに画かれていたと称せられている。これに反して英国で高層観測事業が一私人ダインスの手から政府に・・・ 寺田寅彦 「戦争と気象学」
・・・それらの知識を確実に把握するためには支那、満洲、シベリアは勿論のこと、北太平洋全面からオホツク海にわたる海面にかけて広く多数に分布された観測点における海面から高層までの気象観測を系統的定時的に少なくも数十年継続することが望ましいのであるが、・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・その当時の気層の状態を高層気象観測の結果と対照して詳細に調査したものが彼の地の雑誌に出ているのを見ると、当時の空中の状況がよく分って面白い。氷点に相当する等温線が大陸をほぼ東西に横断してその以北は雪、以南は雨が降っている、その雨と雪の境界に・・・ 寺田寅彦 「凍雨と雨氷」
・・・ 高層の風が空中に描き出した関東の地形図を裏から見上げるのは不思議な見物であった。その雲の国に徂徠する天人の生活を夢想しながら、なおはるかな南の地平線をながめた時に私の目は予想しなかったある物にぶつかった。 それははるかなはるかな太・・・ 寺田寅彦 「春六題」
・・・ヘルマン教授の許にいた連中とリンデンベルクの高層気象台へ行ったときはベルゾン博士が案内の労をとった。この人はジューリングと一緒に気球で成層圏の根元に近づき一時失神しながらも無事に着陸したという経験をもっていて、搭乗気球としての最高のレコード・・・ 寺田寅彦 「ベルリン大学(1909-1910)」
きょうの時事新報をみたら、先頃渡米した十人の婦人団がニューヨークについて、女子キリスト青年会を訪問した写真がのっている。高層建築が左右からそびえたって空も見えないレキシントン街を背景に、もんぺをぬいだ赤松常子参議員が、白足・・・ 宮本百合子 「この三つのことば」
出典:青空文庫