・・・それが高島田だったというからなお稀有である。地獄も見て来たよ――極楽は、お手のものだ、とト筮ごときは掌である。且つ寺子屋仕込みで、本が読める。五経、文選すらすらで、書がまた好い。一度冥途をってからは、仏教に親んで参禅もしたと聞く。――小母さ・・・ 泉鏡花 「絵本の春」
・・・「まさか、巻込まれたのなら知らないこと――お婿さんをとるのに、間違ったら、高島田に結おうという娘の癖に。」「おじさん、ひどい、間違ったら高島田じゃありません、やむを得ず洋髪なのよ。」「おとなしくふっくりしてる癖に、時々ああいう口・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・水の垂りそうな、しかしその貞淑を思わせる初々しい、高等な高島田に、鼈甲を端正と堅く挿した風采は、桃の小道を駕籠で遣りたい。嫁に行こうとする女であった。…… 指の細く白いのに、紅いと、緑なのと、指環二つ嵌めた手を下に、三指ついた状に、裾模・・・ 泉鏡花 「革鞄の怪」
・・・「ところでと、あのふうじゃあ、ぜひ、高島田とくるところを、銀杏と出たなあどういう気だろう」「銀杏、合点がいかぬかい」「ええ、わりい洒落だ」「なんでも、あなたがたがお忍びで、目立たぬようにという肚だ。ね、それ、まん中の水ぎわが・・・ 泉鏡花 「外科室」
・・・お小姓がね、皺を伸してその白粉の着いた懐紙を見ていたが、何と思ったか、高島田に挿している銀の平打の簪、※が附いている、これは助高屋となった、沢村訥升の紋なんで、それをこのお小姓が、大層贔屓にしたんだっさ。簪をぐいと抜いてちょいと見るとね、莞・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・ その女は、丈長掛けて、銀の平打の後ざし、それ者も生粋と見える服装には似ない、お邸好みの、鬢水もたらたらと漆のように艶やかな高島田で、強くそれが目に着いたので、くすんだお召縮緬も、なぜか紫の俤立つ。 空いた処が一ツあったが、女の坐っ・・・ 泉鏡花 「妖術」
・・・ 日本の婦人の特徴ということを国際的な文化紹介としてあげ、優雅な日本の姿を欧米に紹介するための写真外交の見本として、きょうも新聞に見えたのは、高島田に立矢の字の麗人が茶の湯の姿である。ところが、そういう画面で日本の女を紹介する習慣を・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・ 美しくありたいという、青春のねがいが、こんな場ちがいな形でまで溢れ出さなければならない、ということや、その人として一番美しく飾った姿といえば、やはり高島田に振袖、しごき姿であるというところに、心をうたれるものがあります。自分を美しくす・・・ 宮本百合子 「今年こそは」
・・・妹である母は、高島田に紫と白のあけぼの染めの絹房の垂れたかんざしをさした頭を下げて、兄の借金の云いわけをしたのであった。 従って謙吉さんのつよく大きい人柄は誇張されて一家のものから評価され、たよられていたと思われる。そういう実家のごたご・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・ おけいちゃんは斯う云ってフンワリ丸味のあるかおに高島田に結って、紫の着物に赤い帯を猫じゃらしにむすんだ人形をポンとひざの上になげ出した。「もうやめましょう」 私達は一どにこう云って、細くて長い雨足をシックリ合った気持で見て居た・・・ 宮本百合子 「芽生」
出典:青空文庫