・・・こんど新潟高校から招待せられ、出かけて来たのも、実は、佐渡へ、ついでに立ち寄ってみたい下心があったからでした。講演は、あまり修行にもなりません。剣道の先生も、一日限りでたくさん也。みみずくの、ひとり笑いや秋の暮。其角だったと思います。十一月・・・ 太宰治 「みみずく通信」
・・・ 中学時代からいっしょであったのが、高校の入学試験でM氏は通過し、亮は一年おくれた。その時M氏に贈った句に「登る露散る露秋の別れかな」というのがある。 高等学校では私もよく食った凱旋饅頭を五十も食って、あとでビットル散をなめたりして・・・ 寺田寅彦 「亮の追憶」
・・・私は少し前まで、高校で一緒にいた同窓生と、忽ちかけ離れた待遇の下に置かれるようになったので、少からず感傷的な私の心を傷つけられた。三年の間を、隅の方に小さくなって過した。しかしまた一方には何事にも促らわれず、自由に自分の好む勉強ができるので・・・ 西田幾多郎 「明治二十四、五年頃の東京文科大学選科」
・・・ 私の次弟は、一九二九年の夏、高校の三年生で自殺をした。そういう経験からも私はこの条に注意を喚起されて読んだのであるが、荒木巍氏の「新しき塩」の中でも、違った形と作者のテムペラメントにおいてではあるが、やはり「流行的な参加の仕方に反撥を・・・ 宮本百合子 「落ちたままのネジ」
・・・夜も昼もと、おさえがたい成長をうながされつつ、――新制高校の若いひとびとの書いた原稿を一つ一つとよみながら、わたしは信頼とよろこびにみたされて、この事実を感じた。 原稿のなかには、丁度わたしが初めて日記というものをつけはじめたころの年齢・・・ 宮本百合子 「小さい婦人たちの発言について」
・・・それは化学のノートで、おそらく高校時代の父が筆記したのだろうと思える。試験管を焔の上で熱する図などが活々としたフリーハンドで插入されていて、計らずも今日秋日のさす埃だらけの廊下の隅でそれを開いて眺めている娘の目には、却ってその絵の描かれてい・・・ 宮本百合子 「本棚」
・・・ 吾人はこの例を一高校風に適用し得べしと思う。吾人の四綱領は武士道の真髄でありソシアリティの変態であろう。しかれどもこの美名の下に隠れたる「美ならざる」者ははたして存在せざるか。向陵の歴史は栄あるものであろう。しかれどもこの影に潜める悪・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫