・・・そしてお前たちの中の一人も突然原因の解らない高熱に侵された。その病気の事を私は母上に知らせるのに忍びなかった。病児は病児で私を暫くも手放そうとはしなかった。お前達の母上からは私の無沙汰を責めて来た。私は遂に倒れた。病児と枕を並べて、今まで経・・・ 有島武郎 「小さき者へ」
・・・ 彼女は息子を隔離病舎へやりたくなかった。そこへ行くともう生きて帰れないものゝように思われるからだった。再三医者に懇願してよう/\自宅で療養することにして貰った。 高熱は永い間つゞいて容易に下らなかった。為吉とおしかとは、田畑の仕事・・・ 黒島伝治 「老夫婦」
・・・いた感想はそのまま役に立たぬことが分り、七月下旬から八月一杯、私はすべて、ほかの仕事をことわって幼年時代から全く新しく書きはじめたのであったが、まだ健康がすっかり恢復していなかったため、過労になって、高熱をだし、九月と十月は休んだ。本が出来・・・ 宮本百合子 「「ゴーリキイ伝」の遅延について」
・・・錠をはずしてある鉄扉を押しあけ、房の内に入った。高熱で留置場の穢れた布団が何とも云えぬ臭気を放っている。自分は、垢と病気で蒼黒く焼けるような今野の手を確り握り、やつれ果てた頬を撫でた。「何だか……ボーとなって来たよ」「頭、ひどく痛い・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ 肺炎だろうと云う人もありインフルエンザだと云う人もあるのですけれ共臆病になって居る家の者達は、皆それ等の病名に安心しないので――そうではないと思って居たいので――一週間高熱の続いた事は何病とは明かに云われて居ないのです。 熱の高低・・・ 宮本百合子 「二月七日」
出典:青空文庫