・・・……いや、高砂の浦の想われるのに対しては、むしろ、むくむくとした松露であろう。 その景色の上を、追込まれの坊主が、鰭のごとく、キチキチと法衣の袖を煽って、「――こちゃただ飛魚といたそう――」「――まだそのつれを言うか――」「・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・道中の胡麻の灰などは難有い御代の事、それでなくっても、見込まれるような金子も持たずさ、足も達者で一日に八里や十里の道は、団子を噛って野々宮高砂というのだから、ついぞまあこれが可恐しいという目に逢った事はないんだよ。」「いえ、そんな事では・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・ 自然女学校は高砂社をも副業とした。教師が媒酌人となるは勿論、教師自から生徒を娶る事すら不思議がられず、理想の細君の選択に女学校の教師となるものもあった。或る女学校では女生の婚約の夫が定まると、女生は未来の良人を朋友の集まりに紹介するを・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・ お河童にして、琴の爪函を抱えて通った童女が、やがて乙女となり、恋になやみ、妻となり、母となって、満ち足りて、ついには輝く銀髪となって、あの高砂の媼と翁のように、安らかに、自然に、天命にゆだねて思うことなく静かにともに生きる――それは尊・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・ おのずからなる石の文理の尉姥鶴亀なんどのように見ゆるよしにて名高き高砂石といえるは、荒川のここの村に添いて流るるあたりの岸にありと聞きたれば、昼餉食べにとて立寄りたる家の老媼をとらえて問い質すに、この村今は赤痢にかかるもの多ければ、年・・・ 幸田露伴 「知々夫紀行」
・・・先日、私は近所の高砂館へ行って久し振りに活動を見て来たが、なんとかいう旧劇にちょっといい場面が一つありました。若侍が剣術の道具を肩にかついで道場から帰る途中、夕立になって、或る家の軒先に雨宿りするのですが、その家には十六、七の娘さんがいてね・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・、故酒井忠質室専寿院から「高砂染縮緬帛二、扇二本、包之内」を賜った。 九郎右衛門が事に就いては、酒井忠学から家老本多意気揚へ、「九郎右衛門は何の思召も無之、以前之通可召出、且行届候段満足褒美可致、別段之思召を以て御紋附麻上下被下置」と云・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫