・・・堂々と、ためらわず、いわゆる高級品を選び出し、しかも、それは不思議なくらい優雅で、趣味のよい品物ばかりである。「いい加減に、やめてくれねえかなあ。」「ケチねえ。」「これから、また何か、食うんだろう?」「そうね、きょうは、我慢・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・こんな高級のウイスキイなら、それは当然の事だ、と私はとっさに合点して、「おい。」 と女房を呼び、「何か瓶を持って来てくれないか。」「いいえ、そうじゃないんです。」 と丸山君はあわて、「半分は今夜ここで二人で飲んで、半・・・ 太宰治 「酒の追憶」
・・・あるいは、高級な読者かも知れない。いずれにもせよ、笠井さんの名前ぐらいは、知っていそうな人たちである。そんな人たちのところへ、のこのこ出かけて行くのは、なんだか自分のろくでもない名前を売りつけるようで、面白くない。軽蔑されるにちがいない。慎・・・ 太宰治 「八十八夜」
・・・かしだね、僕にこれをサントリイウイスキイだと言って百五十円でゆずってくれた人は、だ、いいかね、そのひとは、この村の酒飲みのさる漁師だが、このひと自身も、これをサントリイウイスキイという名前の、まことに高級なる飲み物であると信じ切っているんだ・・・ 太宰治 「春の枯葉」
・・・つまり、高級なんだね。千両役者だからね。晴耕雨読。三度固辞して動かず。鴎は、あれは唖の鳥です。天を相手にせよ。ジッドは、お金持なんだろう? すべて、のらくら者の言い抜けである。私は、実際、恥かしい。苦しさも、へったくれもない。なぜ、書か・・・ 太宰治 「懶惰の歌留多」
・・・は比較にならぬほど複雑で深刻な事件とその心理とを題材として取扱っているから、もし成効すれば芸術的に高級なものになり得るはずであるが、同時にこれを娯楽のための映画として観ると、観たあとの気持はあまり健全な愉快なものではないはずである。「泉・・・ 寺田寅彦 「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」
・・・これをそっくり写真に取れば、立派な、高級な漫画になるであろう。しかし安全も危険も実は相対的の言葉である。安全地帯の危険率も、危険地帯の安全率もゼロではない。 二 ある会社のある工場に新たに就職した若い男が、就・・・ 寺田寅彦 「KからQまで」
・・・ 前記の小説家もこんなことぐらいはもちろん承知の上でそれとは少し別の意味でそう云ったには相違ないが、しかし不用意に読み流した読者の中には著者の意味とちがった風に解釈して、それだから概括的に小説は高級なもので随筆は低級なものであるという風・・・ 寺田寅彦 「雑記帳より(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・ 具体的に言うことができないのは遺憾であるが、自分の知っている多数の実例において、科学者の目から見れば実に話にもならぬほど明白な事がらが最高級な為政者にどうしても通ぜずわからないために国家が非常な損をしまた危険を冒していると思われるふし・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・そうした行列の中を一台立派な高級自動車が人の流れに堰かれながらいるのを見ると、車の中には多分掛物でも入っているらしい桐の箱が一杯に積込まれて、その中にうずまるように一人の男が腰をかけてあたりを見廻していた。 帰宅してみたら焼け出された浅・・・ 寺田寅彦 「震災日記より」
出典:青空文庫