・・・連句が全体を通じて物語的な筋をもたないから連句は低級なものであると考えるのは、表題音楽が高級で、ソナタ、シンフォニーが低級であるというのと同様である。連句は音楽よりも次元的に数等複雑な音楽的構成から成立している。音と音との協和不協和よりも前・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・これらはもちろん非常に精密なる最高級の量的実験の結果としてのみ得られるものである。たとえばあまりに有名なルヴェリエの海王星における、レーリーのアルゴンにおけるごときものである。また近ごろの宇宙線のごときものもそうである。これらの発見の重大な・・・ 寺田寅彦 「量的と質的と統計的と」
・・・ 多くもない労働者が、機関銃の前の決死隊のように、死へ追いやられた。 十七人の労働者と、二人の士官と、二人の司厨が、ピークに、「勝手に」飛び込んだ。 高級海員が六人と、水夫が二人と、火夫が一人残った。 第三金時丸は、痛風にか・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・今日、所謂高級ではない雑誌に時々のせられているそれらの手紙は、実に読者をうつものをもっている。これらの飾らず、たくまざる人々の記録と、職業家のルポルタージュとの対比は、文学に関心をもつ者の心に真摯な考慮を呼びさまさずにはいない。又、いつかは・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・黒と白だけで全部を表現する版画家の人生に対する感情にさまざまな点から新しい興味を喚起されたし、文化の程度の低い民族あるいは社会層の者ほど原色配合を好み、高級となり洗練された人間ほど微妙な間色の配合、陰翳を味わう能力を増すといわれているありき・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・軍につながる高級官僚たちが素早く我をかばった保身の術も、同情をもってみられてはいない。 いま新京を遁走するという八月九日の夜、観象台の課長であった著者の良人が、責任感から、他の所員を引揚団の団長にして自分は一応残留したという事実に、読者・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・寺田氏の科学的業績を云々する資格はもとよりないのであるけれども、文学的遺業について見ると、寺田氏がこの人生に向った角度にあらそわれぬ明治時代色があり、同時代の食うに困らなかった知識人の高級なディレッタンティズムが漂っているのである。文学的才・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・ 家を引越し、もう少し周囲の高級な、部屋ももう一つ位多い処へ行きたい希望がある。然し、目下の所、いつ其が実現されるか難しい。我々の経済状態では、六七十円の家賃は、あまりうれしくない。高く出すと、出せない時もある心配が要る。此・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
・・・は事実上高級社員、確かな人物という範囲でだけ動いていて、社内一般の労務者の生活のよろこびの源とはなっていないわけである。ここに、営利会社というものの本質からの撞着の姿があるし、働く男女のおかれている社会の条件のむきつけな露出もあると思う。・・・ 宮本百合子 「働く婦人」
・・・この統計によって見ても明かなように高級な智脳活動にはすらりとした背も高いタイプが適し、工場の労働、農業などにはずんぐりで手脚も太短い娘が適しているのである。云いかえれば、今の世の中で下積みの女は、下積みで生涯を過していいように生れているとそ・・・ 宮本百合子 「花のたより」
出典:青空文庫