・・・この鬱金香の花はわたしが縫取をして、それを職人にしたてさせたのよ。わたし鬱金香が大嫌いさ。だけれどあの人はなんにでも鬱金香を付けなくちゃあ気が済まないのだもの。(乙、目を雑誌より放し、嘲弄の色を帯びて相手を見る。甲、両手を上沓に嵌・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:森鴎外 「一人舞台」
・・・ 天鵝絨のように生えた青草の上に、蛋白石の台を置いて、腰をかけた、一人の乙女を囲んで、薔薇や鬱金香の花が楽しそうにもたれ合い、小ざかしげな鹿や、鳩や金糸雀が、静かに待っています。 そして、台の左右には、まるで掌に乗れそうな体のお爺さ・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
出典:青空文庫