・・・山に生れた鬼子であるから、岩根を踏みはずしたり滝壺へ吸いこまれたりする気づかいがないのであった。天気が良いとスワは裸身になって滝壺のすぐ近くまで泳いで行った。泳ぎながらも客らしい人を見つけると、あかちゃけた短い髪を元気よくかきあげてから、や・・・ 太宰治 「魚服記」
・・・諸君、我らはこの天皇陛下を有っていながら、たとえ親殺しの非望を企てた鬼子にもせよ、何故にその十二名だけ宥されて、余の十二名を殺してしまわなければならなかったか。陛下に仁慈の御心がなかったか。御愛憎があったか。断じて然ではない――たしかに輔弼・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・呪いの鬼子、気違い力の私生児、入れ! 入れ!見てくれ、俺も老いまい? 粉のように飛んで、光のように、人間共にからみつく、あの――ヴィンダー 仕事は分担だ。騒ぐな。ところへ、カラ、駆けて来る。カラ ああ、貴方がた。――その・・・ 宮本百合子 「対話」
出典:青空文庫