・・・まして火の中へ隠れてしまう魔法を知って居る犬山道節だの、他人の愛情や勇力を受けついでくれる寧王女のようなそんな人は、どう致しまして有るわけのものではありません。それでは馬琴が描いた小説中の人物は当時の実社会とはまるで交渉が無いかというと、前・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
魔法。 魔法とは、まあ何という笑わしい言葉であろう。 しかし如何なる国の何時の代にも、魔法というようなことは人の心の中に存在した。そしてあるいは今でも存在しているかも知れない。 埃及、印度、支那、阿剌比亜、波斯・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・王子は今まで魔法にかかって、永い間馬になっていたのでした。 二人は大よろこびをして、たがいに手を取って御殿へはいりました。王女のよろこびも、たとえようがないほどでした。 めでたい、御婚礼のお祝いは、にぎやかに二週間つづきました。ウイ・・・ 鈴木三重吉 「黄金鳥」
・・・王女はこういうじゆうじざいな魔法の力をもっているのです。これまで、どんな人が番に来ても、みんな王女をにがしたわけが、これでおわかりになったでしょう。 ところが今夜にかぎって、王女はついやりそこなって、まんまと火の目小僧と長々とに見つかっ・・・ 鈴木三重吉 「ぶくぶく長々火の目小僧」
・・・包まれてめらめら青く燃えあがっているように見え、外界のものがすべて、遠いお伽噺の国の中に在るように思われ、水野さんのお顔が、あんなにこの世のものならず美しく貴く感じられたのも、きっと、あの、私の眼帯の魔法が手伝っていたと存じます。 水野・・・ 太宰治 「燈籠」
・・・ ――むかし北の国の森の中に、おそろしい魔法使いの婆さんが住んでいました。実に、悪い醜い婆さんでありましたが、一人娘のラプンツェルにだけは優しく、毎日、金の櫛で髪をすいてやって可愛がっていました。ラプンツェルは、美しい子でした。そうして・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・そこでチルナウエルは次第に小さい銀行員たることを忘れて、次第に昔話の魔法で化された王子になりすました。 珈琲店では新しい話の種がたっぷり出来た。伯爵中尉の気まぐれも非常であるが、小さい銀行員の僥倖も非常である。あんな結構な旅行を、何もあ・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・道路が真直ぐに通っている。この辺の昔のままの荒川沿いの景色がこうしたモダーンな道路をドライヴしながら見ると、昔とはまた全く別な景色に見えるから妙である。道路が魔法師の杖のように自然を変化させるのである。 志木の近くの水門で釣をしている人・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
・・・考えてみると映画製作者というものは恐ろしい「魔法の杖」の持ち主である。 七 ロスチャイルド この映画はなにしろ取り扱っている物語の背景の大きさというハンディキャップを持っている。その上に主役となる老優の渋くてこなれた・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・それが巫女の魔法を修する光景に形どって映写されているようであるが、ここの伴奏がこれにふさわしい凄惨の気を帯びているように思う。哀れな姫君の寝姿がピアニシモで消えると同時に、グヮーッとスフォルザンドーで朗らかなパリの騒音を暗示する音楽が大波の・・・ 寺田寅彦 「音楽的映画としての「ラヴ・ミ・トゥナイト」」
出典:青空文庫