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・・・「いや、……崖下のあの谷には、魔窟があると言う。……その種々の意味で。……何しろ十年ばかり前には、暴風雨に崖くずれがあって、大分、人が死んだ処だから。」―― と或友だちは私に言った。 炎暑、極熱のための疲労には、みめよき女房の面・・・
泉鏡花
「二、三羽――十二、三羽」
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・・・なにか、陰惨な世界を見たくて、隅田川を渡り、或る魔窟へ出掛けて行ったときなど、私は、その魔窟の二三丁てまえの小路で、もはや立ちすくんで了った。その世界から発散する臭気に窒息しかけたのである。私は、そのようなむだな試みを幾度となく繰り返し、そ・・・
太宰治
「断崖の錯覚」