・・・いったいに魚肉をきらう様である。味覚の故ではなくして、とげを抜くのが面倒くさいのである。たいへん高価なものだそうであるが、鮎の塩焼など、一向に喜ばない。申しわけみたいに、ちょっと箸でつついてみたりなどして、それっきり、振りむきもしない。玉子・・・ 太宰治 「懶惰の歌留多」
・・・平たく言えば、われわれ人間はこうした災難に養いはぐくまれて育って来たものであって、ちょうど野菜や鳥獣魚肉を食って育って来たと同じように災難を食って生き残って来た種族であって、野菜や肉類が無くなれば死滅しなければならないように、災難が無くなっ・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・牛乳か魚肉、それもいい所だけで堅い頭の骨などは食おうともしなかった。恐ろしいぜいたくな猫だというものもあれば、上品だといってほめるものもあった。膳の上のものをねらうような事も決してしないのである。 子供らの猫に対する愛着は日増しに強くな・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
・・・せっかく与える魚肉でも少し古ければ香をかいだままで口をつけない。そのお流れをみんな健啖な道化師の玉が頂戴するのであった。 満七年の間に三十匹ほどの子猫の母となった。最後の産のあとで目立って毛が脱けた。次第に食欲がなくなり元気がなくなった・・・ 寺田寅彦 「備忘録」
・・・ただし飲酒は一大悪事、士君子たる者の禁ずべきものなれば、その入費を用意せざるはもちろんなれども、魚肉を喰らわざれば、人身滋養の趣旨にもとり、生涯の患をのこすことあるゆえ、おりおりは魚類獣肉を用いたきものなり。一ヶ月六両にては、とても肉食の沙・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾新議」
出典:青空文庫