・・・あれはこの動物にとっては全く飼主の曲馬師から褒美の鮮魚一尾を貰うための労役に過ぎないであろうが、娯楽のために入場券を買ってはいった観客の眼には立派な一つの球技として観賞されるであろう。不思議なのはこの動物にそういう芸を仕込まれ得る素質がどう・・・ 寺田寅彦 「ゴルフ随行記」
・・・鳥は鮮魚を食い尽くしたが布切れの下の腐肉には気づかなかったとある。 しかし、これはずいぶん心細い実験だと思われる。原著を読まないで引用書を通して読んだのであるからあまり強いことは言われないが、これだけの事実から、鷙鳥類の嗅覚の弱いことを・・・ 寺田寅彦 「とんびと油揚」
・・・農民が珍らしい鮮魚のエラのうらまでを、味いつくしてたべ楽しむ、ああいう舌なめずりがある。外から来たもの、都会を発見したものの都会の味いかたです。人生におけるこの味いかた、この田舎っぺえさが藤村にあっては骨子をなしている。 私は、何だか藤・・・ 宮本百合子 「「夜明け前」についての私信」
出典:青空文庫