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・・・だんだん近くなりますと、それは頑丈そうな変に小さな腰の曲ったおじいさんで、一枚の板きれの上に四本の鯨油蝋燭をともしたのを両手に捧げてしきりに斯う叫んで来るのでした。「家の中の燈火を消せい。電燈を消してもほかのあかりを点けちゃなんにもなら・・・
宮沢賢治
「ポラーノの広場」
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・・・ひろ子はそこで、潮の香をかぎ、鯨油ランプの光にてらされる夜、濤の音をきき、豆の花と松の若芽の伸びを見ながら、井戸ばたでよごれた皿などを洗って数日くらした。その数日は、それまでの数年間のくらしの精髄が若松のかおりをこめた丸い露の玉に凝って、ひ・・・
宮本百合子
「風知草」