・・・「きょう、秀公といっしょに帰ったら、鳥屋の前で、いろいろの鳥が鳴いているのを見て、ああ、うそが、琴を弾じているといったんだよ。」と話しました。「うそってなあに?」と、お姉さんがたずねられました。「姉さんは、まだ、うそという鳥を知・・・ 小川未明 「二少年の話」
一 深川八幡前の小奇麗な鳥屋の二階に、間鴨か何かをジワジワ言わせながら、水昆炉を真中に男女の差向い。男は色の黒い苦み走った、骨組の岩畳な二十七八の若者で、花色裏の盲縞の着物に、同じ盲縞の羽織の襟を洩れて、印・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・元祖本家黒焼屋の津田黒焼舗と一切黒焼屋の高津黒焼惣本家鳥屋市兵衛本舗の二軒が隣合せに並んでいて、どちらが元祖かちょっとわからぬが、とにかくどちらもいもりをはじめとして、虎足、縞蛇、ばい、蠑螺、山蟹、猪肝、蝉脱皮、泥亀頭、手、牛歯、蓮根、茄子・・・ 織田作之助 「大阪発見」
・・・ 橇には、五人ずつ、或は六人ずつ塒にかたまる鶏のように防寒服の毛で寒い隙間を埋めて乗りこんだ。歩けない者は、看護卒の肩にすがり、又は、担架にのせられて運んで行かれた。久しい間の空気のこもった病室から院庭へ出ると、圧縮された胸がすが/\し・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・「狐には穴あり、鳥には塒、されども人の子には枕するところ無し」それ、それ、それだ。ちゃんと白状していやがるのだ。ペテロに何が出来ますか。ヤコブ、ヨハネ、アンデレ、トマス、痴の集り、ぞろぞろあの人について歩いて、脊筋が寒くなるような、甘ったる・・・ 太宰治 「駈込み訴え」
・・・の新夫婦は唖々と鳴きかわして先になり後になり憂えず惑わず懼れず心のままに飛翔して、疲れると帰帆の檣上にならんで止って翼を休め、顔を見合わせて微笑み、やがて日が暮れると洞庭秋月皎々たるを賞しながら飄然と塒に帰り、互に羽をすり寄せて眠り、朝にな・・・ 太宰治 「竹青」
・・・ 室へ帰る時、二階へ通う梯子段の下の土間を通ったら、鳥屋の中で鷄がカサコソとまだ寝付かれぬらしく、ククーと淋しげに鳴いていた。床の中へもぐり込んで聞くと、松の梢か垣根の竹か、長く鋭い叫び声を立てる。このような夜に沖で死んだ人々の魂が風に・・・ 寺田寅彦 「嵐」
・・・しかし小鳥屋専門の店ではなかったような気がする。 その×は色の白い女のように優しい子であったが、それが自分に対して特別に優し味と柔らか味のある一風変った友達として接近していた。外の事は覚えていないがただ一事はっきり覚えているのは、この子・・・ 寺田寅彦 「鷹を貰い損なった話」
・・・いつか塒に迷うた蝙蝠を追うて荒れ地のすみまで行ったが、ふと気がついて見るとあたりにはだれもいぬ。仲間も帰ったか声もせぬ。川向こうを見ると城の石垣の上に鬱然と茂った榎がやみの空に物恐ろしく広がって汀の茂みはまっ黒に眠っている。・・・ 寺田寅彦 「花物語」
・・・傾きやすき冬日の庭に塒を急ぐ小禽の声を聞きつつ梔子の実を摘み、寒夜孤燈の下に凍ゆる手先を焙りながら破れた土鍋にこれを煮る時のいいがたき情趣は、その汁を絞って摺った原稿罫紙に筆を執る時の心に比して遥に清絶であろう。一は全く無心の間事である。一・・・ 永井荷風 「十日の菊」
出典:青空文庫