・・・ 狂言は、それから、すっぱが出て、与六を欺し、与六が帰って、大名の不興を蒙る所で完った。鳴物は、三味線のない芝居の囃しと能の囃しとを、一つにしたようなものである。 僕は、次の狂言を待つ間を、Kとも話さずに、ぼんやり、独り「朝日」をの・・・ 芥川竜之介 「野呂松人形」
・・・並んだ小屋は軒別に、声を振立て、手足を揉上げ、躍りかかって、大砲の音で色花火を撒散らすがごとき鳴物まじりに人を呼ぶのに。 この看板の前にのみ、洋服が一人、羽織袴が一人、真中に、白襟、空色紋着の、廂髪で痩せこけた女が一人交って、都合三人の・・・ 泉鏡花 「革鞄の怪」
・・・ この間に、あちらの往来をチンチン、ガンガンと鳴り物をならして、ちんどん屋がとおりました。三郎さんも、ヨシ子さんも、いってみたかったのだけれど、正ちゃんが、いっしょうけんめいで、じゅず玉をとおしているのでゆくことができませんでした。・・・ 小川未明 「左ぎっちょの正ちゃん」
・・・然るに本文の意を案ずるに、歌舞伎云々以下は、家の貧富などに論なく、唯婦人たる者は芝居見物相成らず、鳴物を聴くこと相成らず、年四十になるまでは宮寺の参詣も差控えよとて、厳しく婦人に禁じながら、暗に男子の方へは自由を与えたるものゝ如し。左れば人・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
出典:青空文庫