・・・鶏や、雀と違って、ただ聞いても、鴛鴦だの、白鷺のあかんぼには、博物にほとんど無関心な銑吉も、聞きつつ、早くまず耳を傾けた。 在所には、旦那方の泊るような旅館がない。片原の町へ宿を取って、鳥博士は、夏から秋へかけて、その時々。足繁くなると・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・ 一処、大池があって、朱塗の船の、漣に、浮いた汀に、盛装した妙齢の派手な女が、番の鴛鴦の宿るように目に留った。 真白な顔が、揃ってこっちを向いたと思うと。「あら、お嬢様。」「お師匠さーん。」 一人がもう、空気草履の、媚か・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・しく死を待つ 獄中の計愁を消すべき無し 法場若し諸人の救ひを欠かば 争でか威名八州を振ふを得ん 沼藺残燈影裡刀光閃めく 修羅闘一場を現出す 死後の座は金きんかんたんを分ち 生前の手は紫鴛鴦を繍ふ月げつちん秋水珠を留める涙 花・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・独鈷鎌首水かけ論の蛙かな苗代の色紙に遊ぶ蛙かな心太さかしまに銀河三千尺夕顔のそれは髑髏か鉢叩蝸牛の住はてし宿やうつせ貝 金扇に卯花画白かねの卯花もさくや井出の里鴛鴦や国師の沓も錦革あたまから蒲団かぶ・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・「彼等のこの数年間の同居生活は、鴛鴦のようだと云っていけなければ、一対の小さな雀のようであったと云えよう。」 ところが或る日のことであった。午砲の鳴る頃、春桃は、いつもの通り屑籠を背負ってとある市場へ来かかった。突然入口で「春桃、春桃!・・・ 宮本百合子 「春桃」
出典:青空文庫