・・・近づくにつれて、晴川歴々たり漢陽の樹、芳草萋々たり鸚鵡の洲、対岸には黄鶴楼の聳えるあり、長江をへだてて晴川閣と何事か昔を語り合い、帆影点々といそがしげに江上を往来し、更にすすめば大別山の高峰眼下にあり、麓には水漫々の月湖ひろがり、更に北方に・・・ 太宰治 「竹青」
・・・の根雪、きらと光って消えかけた一瞬まえの笹の葉の霜、一万年生きた亀の甲、月光の中で一粒ずつ拾い集めた砂金、竜の鱗、生れて一度も日光に当った事のないどぶ鼠の眼玉、ほととぎすの吐出した水銀、蛍の尻の真珠、鸚鵡の青い舌、永遠に散らぬ芥子の花、梟の・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・ 私はこのイズムには始めて出会ったので、早速英辞書をあけて調べていると psittaciというのは鸚鵡の類をさす動物学の学名で、これにイズムがついたのは、「反省的自覚なき心の機械的状態」あるいは「鸚鵡のような心的状態」という意味だとある・・・ 寺田寅彦 「鸚鵡のイズム」
・・・ 朗詠の歌の詞は「新豊の酒の色は鸚鵡盃の中に清冷たり、長楽の歌の声は鳳凰管の裏に幽咽す」というのだそうであるが、聞いていてもなかなかそうは聞きとれないほどにゆっくり音を引延ばして揺曳させて唱う。そしてその声が実際幽咽するとでもいうのか、・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・籐のステッキ、更紗、貝がら、貝細工、菊形の珊瑚礁、鸚鵡貝など。 出帆が近くなると甲板は乗客と見送りでいっぱいになった。けさ乗り込んだ二等客の子供だけが四十二人あるとハース氏が言う。神戸で乗った時は全体で九人であったのに。 マライ人が・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・「鸚鵡石」という不思議な現象の記事を、ゆうけんしょうろく、提醒紀談、笈埃随筆等で散見する。これは山腹に露出した平滑な岩盤が適当な場所から発する音波を反響させるのだという事は今日では小学児童にでもわかる事である。岩面に草木があ・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・洋琴の声、犬の声、鶏の声、鸚鵡の声、いっさいの声はことごとく彼の鋭敏なる神経を刺激して懊悩やむ能わざらしめたる極ついに彼をして天に最も近く人にもっとも遠ざかれる住居をこの四階の天井裏に求めしめたのである。 彼のエイトキン夫人に与えたる書・・・ 夏目漱石 「カーライル博物館」
・・・枝から釣るす籠の内で鸚鵡が時々けたたましい音を出す。「南方の日の露に沈まぬうちに」とウィリアムは熱き唇をクララの唇につける。二人の唇の間に林檎の花の一片がはさまって濡れたままついている。「この国の春は長えぞ」とクララ窘める如くに云う・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・「今日は飼っていた鸚鵡を売りました」と妹がいった。姉もまけずに「前使った学校の招牌も売りました。十円に買って行きました」と云った。 運命の車は容赦なく廻転しつつある。我輩の前および彼ら二人の前にはいかなる出来事が横わりつつあるか。我らは・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・となることが、どれほど複雑、困難な現実の内容を持っているかを知ろうという方向に導こうとせず、愚な鸚鵡のようにきまり文句を平気で若い女性たちがくりかえしているのをよしとするのであれば、それこそ、日本文化中央連盟がそれに向って勇ましい戦いを宣言・・・ 宮本百合子 「世界一もいろいろ」
出典:青空文庫