・・・が、一方また豪傑肌の所もあって、日夜杯に親みながらさらに黄白を意としなかった。「天雲の上をかけるも谷水をわたるも鶴のつとめなりけり」――こう自ら歌ったほど、彼の薬を請うものは、上は一藩の老職から、下は露命も繋ぎ難い乞食非人にまで及んでいた。・・・ 芥川竜之介 「或敵打の話」
・・・鏘々然として、床に落ちる黄白の音が、にわかに、廟外の寒雨の声を圧して、起った。――撒かれた紙銭は、手を離れると共に、忽ち、無数の金銭や銀銭に、変ったのである。……… 李小二は、この雨銭の中に、いつまでも、床に這ったまま、ぼんやり老道士の・・・ 芥川竜之介 「仙人」
・・・こう云う風であるから真面目に熱心に斯道の研究をしようと云う考えはなく少しく名が出れば肖像でも画いて黄白を貪ろうと云うさもしい奴ばかりで、中にたまたま不折のような熱心家はあるが貧乏であるから思うように研究が出来ぬ。そこらの車夫でもモデルに雇う・・・ 寺田寅彦 「根岸庵を訪う記」
出典:青空文庫