・・・俺ァはァ、一生懸命詫びたがどうしてもきかねえ、それであの支配人の黒田さんに泣きついて、一緒に詫びて貰っただ」 傍で、オロオロしている嫁が云った。「で、もとどおりになったかいな」「ウウン、そうはいかねえ、謝りのしるしに榛の木畑をあ・・・ 徳永直 「麦の芽」
・・・その頃偶然黒田清輝先生に逢ったことがあるが「君も今の中に早く写真をうつして置け。」と戯に言われたのを、わたくしは今に忘れない。日本の風土気候は人をして早く老いさせる不可思議な力を持っている。わたくしは専これらの感慨を現すために『父の恩』と題・・・ 永井荷風 「正宗谷崎両氏の批評に答う」
・・・会員の中押川春浪黒田湖山井上唖々梅沢墨水等の諸氏は既にこの世には居ない。拙著「あめりか物語」の著作権が何人の手に専有せられているかは、今日に至るまで未だ曾て法律上には確定せられていないものと見ねばならない。博文館が強いて拙著の著作権専有を主・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・十二月二十四日開催の第七十三議会に先立つこと九日の十五日に日本無産党・全評を中心として全国数百人の治維法違反容疑者の検挙が行われ、議会に席を有する加藤勘十、黒田寿男氏等は何日も経ず起訴された。被検挙者中には、大森義太郎、向坂逸郎、猪俣津南雄・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ その上、樅の木にローソクをつけて、三鞭酒をのむというような習慣は子供のときから持ち合わせていない。 橇にのっかって、別の、そこの廊下には絨毯を敷いてあるホテルへ行った。 黒田礼二がドイツから来ている。 コスモポリタンになっ・・・ 宮本百合子 「モスクワの姿」
・・・婆あさんは伊織の妻るんと云って、外桜田の黒田家の奥に仕えて表使格になっていた女中である。るんが褒美を貰った時、夫伊織は七十二歳、るん自身は七十一歳であった。 ―――――――――――――――― 明和三年に大番頭になった・・・ 森鴎外 「じいさんばあさん」
出典:青空文庫