・・・ ふりかえってみると、いまでた予の宿の周囲がじつにおもしろい。黒石でつつまれた高みの上に、りっぱな赤松が四、五本森をなして、黄葉した櫟がほどよくそれにまじわっている。東側は神社と寺との木立ちにつづいて冬のはじめとはいえ、色づいた木の葉が・・・ 伊藤左千夫 「河口湖」
・・・その前は、あの人の生れた黒石のうちにいて、黒石の小学校の先生をしていたのですし、この村のそんな、二十年も昔の事など知っているわけはないじゃありませんか。ばかばかしい。いいえ、でも、土地に新しく来た人というものは、へんにその土地の秘密に敏・・・ 太宰治 「春の枯葉」
・・・ そこを過て、帝政時代から建っているひどい労働者住宅の間を抜け、段々上り坂の道を自動車は速力を落して進んだ。黒石油だけが湧き出す油田というのを見た。主として重油、機械油、リグロイン等を精製するのだそうであるが、その露天泉を眺めた時、自分・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
出典:青空文庫