・・・フランシスはクララの頭に手を置きそえたまま黙祷していた。「私の心もおののく。……私はあなたに値しない。あなたは神に行く前に私に寄道した。……さりながら愛によってつまずいた優しい心を神は許し給うだろう。私の罪をもまた許し給うだろう」 ・・・ 有島武郎 「クララの出家」
・・・ それから牧師の祈りと、熱心な説教、そしてすべてが終わって、堂の内の人々一斉の黙祷、この時のしばしの間のシンとした光景――私はまるで別の世界を見せられた気がしたのであります。 帰りは風雪になっていました。二人は毛布の中で抱き合わんば・・・ 国木田独歩 「あの時分」
・・・ 情緒の昂揚に全身をまかせ、詩について音楽について、憧憬ている旅の楽しさについて物語る時、マルクス主義の立場で経済論を書くローザはいつともなく黙祷だの、美しさだの、神秘だのの感情に溺れている。雲の綺麗さに恍惚として彼女は「こんな色や、こ・・・ 宮本百合子 「生活の道より」
・・・法王はやせて骨の目立つ手を老人の毛のうすい頭にのせて黙祷する。それから順々に二言三言感謝の言葉をのべるものや、中には狂的に法王の手を接吻したりさすったりして祈るものがあるかと思えば、身の浮くほど泣くのも居る。十九番目に母親に・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
出典:青空文庫