・・・父母も、はんぶんは黙許のかたちであった。お菓子職人、二十三歳。上京して、早速、銀座のベエカリイに雇われた。薄給である。家を持つことは、できず、数枝も同じ銀座で働いた。あまり上品でないバアである。少しずつ離れて、たちまち加速度を以て、離れてし・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・親が黙許した限度に止っているとは限らない。若さは時代の空気に敏感で、素質のいい、若い少数のインテリゲンツィア婦人たちは、強烈に先ず家庭内の封建性と衝突し、引いて貴族やブルジョア社会の破廉恥、搾取、無目的な浪費生活をきびしく批判するようになっ・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
・・・私は、更に新たに形作った生活の形式、形式の黙許している種々なる関係に腐ったものがあるに違いないと感じました。その為に、自分は、目に見えて毒されて行く。こうしてはいられない。これを征服するか、征服されてしまうか? 征服された暁を考えると、そこ・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
・・・これは上へ通った事ではないが、いわゆる大目に見るのであった、黙許であった。 当時遠島を申し渡された罪人は、もちろん重い科を犯したものと認められた人ではあるが、決して盗みをするために、人を殺し火を放ったというような、獰悪な人物が多数を占め・・・ 森鴎外 「高瀬舟」
・・・知っていた。知って黙許していた。然るに鶏と卵とばかりではない。別当には systmatiquement に発展させた、一種の面白い経理法があって、それを万事に適用しているのである。鶏を一しょに飼って、生んだ卵を皆自分で食うのは、唯この sy・・・ 森鴎外 「鶏」
出典:青空文庫