・・・人を順良にせんとするの方便は、たまたまこれを詭激に導くの助けをなし、目的の齟齬する、これよりはなはだしきはなし。ひっきょう、社会は活世界にして、学校に教うる者も活物なれば、学ぶ者もまた活物なり。この活物の運動は、親子の間柄にてもなおかつ自由・・・ 福沢諭吉 「経世の学、また講究すべし」
・・・んものをと思う一心よりこれを出版して、存外によく売れたるにつき、これは面白しとて、また出版すれば、また売れ、ついに図らざる利益を得たることにして、あるいはこれに反対して利益なかりしとても、さまで心事の齟齬したるものにあらざればなり。 さ・・・ 福沢諭吉 「成学即身実業の説、学生諸氏に告ぐ」
・・・鴎外のロマンチシズム、その中挫、ゲーテ的なものの空想と現実との齟齬、大変面白いのです。いつになったら書けるか、今、ゴーリキイをやっていて、九月初旬本になり、築地の記念上演と同時に出るでしょう。それから腰を据えて小説を書いて、それからこの三老・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・これ等の、相互の生活が結合しないうちは何にも影響のないことであって、いざ一家を持つと種々な面倒や感情の齟齬を来しそうな点について、出来る丈精密な熟議を凝します。男子も同様な方面に働く人なら云うことはない。然し、そうでなく、或る程度までの趣味・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・不幸にして日本では、以来これらの混乱し錯雑した文学上の理解の齟齬を、全面的に生活的に正して行く条件がプロレタリア文学運動として欠けたままでいるのである。従って一般の読者は文学作品と言えば、ブルジョア作家のものも、プロレタリア作家と云われる人・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・其点で感情が齟齬しては、もうどうにもならないことになるだろう。 幸、父の一言二言で、その危険な峠は越した。 久しぶりで隠居所にも行き、兎に角、落着し、老人は一日置いた翌日呼ぶことと定ったのである。 老人の呼ばれた日、林町では、家・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・ 様々に描き、予想し、もう自己の内部を絶頂まで披瀝して当ったのですから、彼方此方で意外な齟齬に出会っても、自己を回収することすら容易でない。自分で自分の手にあまる廻りからは、どんどん新たな、決して、私の有るべきという範疇では認めていなか・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
出典:青空文庫