・・・……亡きあとでも、その常用だった粗末な手ぶんこの中に、なおざりにちょっと半紙に包んで、といけぞんざいに書いたものを開けると、水晶の浄土珠数一聯、とって十九のまだ嫁入前の娘に、と傍で思ったのは大違い、粒の揃った百幾顆の、皆真珠であった。 ・・・ 泉鏡花 「怨霊借用」
・・・――(この枇杷の樹が、馴染の一家族の塒なので、前通りの五本ばかりの桜の樹(有島にも一群――時に、女中がいけぞんざいに、取込む時引外したままの掛棹が、斜違いに落ちていた。硝子一重すぐ鼻の前に、一羽可愛いのが真正面に、ぼかんと留まって残っている・・・ 泉鏡花 「二、三羽――十二、三羽」
・・・ 話の中には――この男が外套を脱ぐ必要もなさそうだから、いけぞんざいだけれども、懇意ずく、御免をこうむって、外套氏としておく。ただ旅客でも構わない。 が、私のこの旅客は、実は久しぶりの帰省者であった。以前にも両三度聞いた――渠の帰省・・・ 泉鏡花 「古狢」
出典:青空文庫