・・・こういうことは、わたしたちの常識にとっては異状に見える。堅実に、堅実に、耐乏して生産復興と云われ、勤労者はその気で生きている傍で踊子たちが宝くじのぐるぐる廻るルーレットを的に矢を射ている。しかし、きょう勤労するすべての人に企業整備の大問題が・・・ 宮本百合子 「新しい文学の誕生」
・・・ ニューヨークのようなところに生活しているとき、若い作者がなぜその人として珍しいほど暗い題材をそれ自身が一つの異常である書きぶりで書いたのだったろうか。時を経た今考えてみると、この「渋谷家の始祖」のモティーヴはきわめて心理的だったと思わ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・ 或は、「こちらは異状ありません、ハ? いや何とも云って来ません」 警視庁で全市の警察から情報をあつめているのだ。 丁度上野でデモが解散という刻限、朝から晴れていた空が驟雨模様になって来た。「こりゃふるね」「同じふる・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・多賀ちゃんから先程手紙で、病気は何でもなく保健所でレントゲン透視をしてもらったら、どこにも異状なしでしたそうです。柳井の組合病院でもレントゲン写真を撮ったところ、これまで病気したあともなくて大変きれいだと言われたそうで大喜びして居ります。肺・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・にはじまる十九世紀の自然主義からロシアの批判的なリアリズムを通じてレマルクが「西部戦線異状なし」から「凱旋門」に至ったヨーロッパ――フランス、ドイツの恐ろしい三〇年間の社会と文学のいきさつを追求してみなければならないことを意味する。そして、・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
一口に片づけ切れない複雑な問題と思います。双方が総ての意味で真面目である場合とすれば、 一、現今のように、何か異状な出来事の如く感ぜず冷静に、深い愛を以って、愛人達の生活のよき発展を助けること、相手がよいわるい、適不適・・・ 宮本百合子 「子に愛人の出来た場合」
・・・ 成程最近の種々な文学賞の氾濫は、一層文学を愛好する青年を見えざる文壇というものの周囲につめかけさせ、そのことは現実に或る種の作家が、人間的にも文学的にも薄弱な少なからぬ若者に囲繞せられる結果をひき起している。それぞれの賞に関係する選者・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・けれども、彼女等の周囲を囲繞して居る種々な条件はなかなか、人類の希望する「そのところ」へは行かせません。 私共の前進に大きな困難があると同様に彼女等も又、多大な努力を要すべき種々な障害を控えて居ります。保守的な彼女等の先輩は、只管に聖句・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・或る程度に子供が育つまで……若し子供の体に異状があったり、お母さんの体に異状があったりすると、健康相談所から病院へ報告してくれて、無料で病気を直してもらえる。ソヴェトの保健省は全国民を無料で医療させるということを目標にしている。農村の方の衛・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・「日本刀焼ゴテで奮戦・文芸戦線大異状。」前田河広一郎・葉山嘉樹・岩藤雪夫及黒島伝治の写真。 東京へかえったら二三の知人が、 ――どうですね、日本のプロ文士の剣劇レビューは?と云って笑った。 ――ソヴェトのプロ文士の喧嘩もあん・・・ 宮本百合子 「ニッポン三週間」
出典:青空文庫