・・・こうーつと、いろいろと考えていると、頭が痛くなり、しまいには、何が因果で金借りに走りまわらんならんと思うのだが、けれど、頼まれた以上、というのはつまり請合った以上というのに外ならないのだが、あの人にとってはもはや金策は義務にひとしい。だから・・・ 織田作之助 「天衣無縫」
・・・その結果が、あと十日と差迫った因果の塊りと、なったというわけである。…… ああ、それにしても、何というおもしろくないことだろう! 書きだしてからもう十日も経っているというのに、まだ五枚と進んでいないのだ。いや、書くことが何もないのだ。そ・・・ 葛西善蔵 「死児を産む」
・・・ますともさすがに言いかねて猶予う光代、進まぬ色を辰弥は見て取りて、なお口軽に、私も一人でのそのそ歩いてはすぐに飽きてしまってつまらんので、相手欲しやと思っていたところへここにおいでなさったのはあなたの因果というもの、御迷惑でもありましょうが・・・ 川上眉山 「書記官」
・・・理想を奉ずることも出来ず、それならって俗に和して肉慾を充して以て我生足れりとすることも出来ないのです、出来ないのです、為ないのではないので、実をいうと何方でも可いから決めて了ったらと思うけれど何という因果か今以て唯った一つ、不思議な願を持て・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・リップスもいうように、非決定論の自由は意欲が因果律に従うことをこばむものである。しかし因果律は先験的な精神の法則であって、これに従わずに思考することはわれわれにはできない。それなら非決定的の自由とは思考ではなく、その放棄であろうか。 ニ・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・「彼の島の者ども、因果の理をも弁えぬ荒夷なれば、荒く当りたりし事は申す計りなし」「彼の国の道俗は相州の男女よりも怨をなしき。野中に捨てられて雪に肌をまじえ、草を摘みて命を支えたりき」 かかる欠乏と寂寥の境にいて日蓮はなお『開目鈔・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・仏教の三世因果の教えも社会に深く浸潤して居りました。で、八犬士でも為朝でも朝比奈でも因縁因果の法を信じて居ります。神仙妖魅霊異の事も半信半疑ながらにむしろ信じられて居りました。で、八犬士でも為朝でもそれらを否定せぬ様子を現わして居ります。武・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
・・・生霊、死霊、のろい、陰陽師の術、巫覡の言、方位、祈祷、物の怪、転生、邪魅、因果、怪異、動物の超常力、何でも彼でも低頭してこれを信じ、これを畏れ、あるいはこれに頼り、あるいはこれを利用していたのである。源氏以外の文学及びまた更に下っての今昔、・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・ 第三巻の後記に於て、私は井伏さんと早稲田界隈との因果関係に触れたが、その早稲田界隈に優るとも劣らぬ程のそれこそ「宿命的」と言ってもいいくらいの、縁が、井伏さんの文学と「旅」とにつながっていると言いたい気持にさえなるのである。 人間・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・親の因果が子に報い、というやつだ。罰だ。もし、この子がこれっきり一生、眼があかなかったならば、もう自分は文学も名誉も何も要らない、みんな捨ててしまって、この子の傍にばかりついていてやろう、とも思った。「坊やのアンヨはどこだ? オテテはど・・・ 太宰治 「薄明」
出典:青空文庫